令和5年司法試験 刑事訴訟法 再現答案

時間119分くらい(構成20分)7枚丁度 予想A→B評価

 

第1 設問1

1 捜査①について

(1)前提として、捜査①は、「強制の処分」(刑事訴訟法(以下、略)197条1項但書)(以下、「強制処分」)たる捜索(218条1項)に当たらないか。

ア 有形力の行使を伴わない処分を念頭に置くと、それを伴う処分を全て強制処分とするのは妥当ではなく、また、既存の強制処分との均衡を考慮すると、法益の内容性質制限の程度を問わずおよそ意思に反する全ての法益侵害を強制処分とするのも妥当ではない。

 そこで、強制処分とは、①個人の意思を制圧して、②重要な法益に対する実質的な侵害制約を伴う処分をいう。なお、対象者に知られることなく密行的に行われる処分の①の有無については、合理的に推認される個人の意思に反するか否かにより決する。

イ Pが、ゴミ袋1袋を領置することを知れば、甲は当然拒むことが予想されるから、捜査①は、合理的に推認される甲の意思に反している。よって、個人の意思を制圧している(①)。

次に、捜査①において領地したゴミ袋1袋は、アパートの敷地内にあったため、捜査①の領置により侵害される法益は、私的領域内のプライバシーであるとも思える。

しかし、同アパートにおいては、大家は、居住者より、ゴミをアパート敷地内のゴミ置き場に捨てるよう指示しており、大家が同ゴミ置き場のゴミの分別を確認し、公道上にある地域のゴミ集積書に、ゴミ回収日の午前8時頃に搬出することにつき、あらかじめ許諾をえている。そうすると、同ゴミ置き場に置かれた時点で、公道上のゴミ置き場に置いたものと同視でき、捜査①をしたとしても、上述の法益を制約することにはならない。

もっとも、公道上のゴミ袋については、捨てた者の「通常このまま収集されて他人にもその内容はみたれることはないという期待がある」という意味で、甲のプライバシーの利益が残存する。しかし、この利益は、憲法35条で保障されている私的領域に対するプライバシーに比して重要ではない。よって、かかる法益は重要な法益に当たらず、捜査①は、重要な法益に対する実質的な侵害制約を伴わない(②)

 よって、捜査①は、強制処分にあたらない。

(2)では、任意処分としての領置(221条)として適法か。

 前提として、「遺留した物」(同条)とは、自己の意思によらずに占有を喪失し、又は、自己の意思によって占有を放棄した物をいうところ、ゴミ袋は、甲が自らの意思により占有を放棄した物であるから、「遺留した物」にあたる。

ア 強制処分に当たらなくとも、上記法益を侵害しうる以上、捜査比例の原則(197条1項本文)が及び、当該処分により侵害される法益侵害の内容程度と、操作目的達成のために、当該操作手段を用いる必要性とを比較衡量し、具体的状況の下で相当といえなければ違法である。

イ 上述のように、操作①により侵害される法益は、他人にその内容を見られることはないという期待であるところ、これは憲法35条で保障される法益に比して重要ではない。また、Pは、甲がアパートの建物から出てきて、ゴミを置くのを現認した上で、そのゴミ袋のみ任意提出を受けて領置している。 そうすると、第三者法益侵害を伴っていない。よって、法益侵害の程度が低い。

 一方、甲に対する嫌疑は、Vに対する、住居侵入・強盗殺人未遂事件という重大犯罪である。また、V型付近にあるコンビニに設置された防犯カメラの映像に、犯人に酷似した着衣や背格好の男性が写っており、さらに、どうコンビニから1キロメートル離れたガソリンスタンドの防犯カメラの映像にも、同男性が写っており、その男性が、上述のアパートに入っていくのPは現認している。そうすると、甲が、上記重大犯罪の偏人である可能性が非常に高く、甲に対して領置を実施する高度の必要性があった。

 さらに、捜査を開始したところ、現場からは、足跡意外に犯人の特定につながる証拠を発見することができず、領置を実施して、本件の証拠を押さえる必要があった。

 以上に鑑みれば、捜査①により侵害される法益の程度に比して、捜査の必要性が高いため、捜査①は、具体的状況の下で相当と言える。

(3)以上より、捜査①は、任意処分として適法である。

2 捜査②について

(1)前提として、捜査②は、強制処分に当たらないか。

ア 第1、1(1)、アの基準で判断する。

イ 甲は、Pが、自己が捨てた容器を回収することを知れば、それを当然拒んだといえるため、捜査②は、合理的に推認される甲の意思に反している。よって、個人の意思を制圧している(①)

 確かに、Pは、甲が公道上に捨てた容器を領置しているため、捜査②により侵害される法益は、通常このまま収集されることに対する期待という利益にとどまるとも思える。

 しかし、炊き出し用の使い捨て容器からは、通常、炊き出しに参加し、配給を受けた者の唾液が付着する。そして、現在の科学技術の下では、唾液から、個人のDNAと特定することができ、DNAから、個人情報を取得することが容易になっている。そうすると、捜査②により侵害される法益は、甲の「DNA等の個人情報を含む唾液をみだりに採取されない自由」である。この法益は、憲法35条で保障される私的領域に侵入されない利益に匹敵するため、重要な法益に当たる。

 そして、Pが、甲の唾液のついた容器を回収して、領置すること自体により、法益侵害の程度も実質的なものに至っている。

 よって、捜査②は、重要な法益に対する実質的な侵害制約を伴う処分(②)であり、強制処分にあたる。

(2)捜査②が、既存の強制処分に当たりうるか検討するに、捜査②は、警察員が、炊き出しに参加し、容器の裏側にマークをつけて、捨てられた容器を領置するというものであり、既存の強制処分のいずれにも当たらない。

 よって、捜査②は、強制処分法定主義違反(197条1項但書)で、違法である。

第2 第2問

1 実況見分調書①(以下、「調書①」)について

(1)調書①は、伝聞証拠(320条1項)にあたり、証拠能力が否定されないか。

ア 伝聞証拠の証拠能力が原則として否定されるのは、供述証拠は、知覚、記憶、叙述の過程に誤りが入り込む恐れがあるため、宣誓の賦課、対立当事者による反対尋問、裁判所による供述態度の観察といった手続により、当該供述内容の真実性を吟味する必要があるところ、供述証拠が伝聞証拠として、公判廷に顕出される場合には、このような吟味の機会がなく、事実認定を誤らせる恐れがあるからである。

 そこで、伝聞証拠とは、①公判期日外における供述を内容とする証拠で、②当該供述内容の真実性を立証するために用いられるものをいう。

 そして、②の有無は、要証事実との関係で相対的に決せられるものの、当事者主義を採用する現行刑訴法の下では、検察官が掲げる立証趣旨がそのまま要証事実になるのが原則であるが、当該立証趣旨に即した立証が何ら意味を持たない例外的な場合には、それとは、別個の事実が要証事実になるものと解さなければならない。

イ 本件の争点は、甲の弁護人が犯人性を争うと主張しているため、甲の犯人性である。そして、Tは、調書①の立証趣旨を「甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能だったこと」すなわち、甲がV型の施錠された玄関ドアの鍵を開けることが可能だった事実それ自体としている。

 証拠構造について検討するに、Tは、調書①、②以外にも、Vの検面調書を証拠調べ請求しており、この調書は伝聞証拠に当たるものの、Vが死亡しているため、321条1項2号により、証拠能力が認められる。そうすると、検面調書を証拠として、立証活動を行うことになる。

 どう検面調書の内容は、「犯人が・・・私の左側頭部を殴った」というものであり、上記事実が立証されれば、甲が実際にVたくに侵入することができ、Vの供述内容が、何らの根拠に基づくものではないことが推認され、Vの供述の信用性が高まる。Vの供述の信用性が高まれば、甲の犯人性立証に資するため、調書①は、Vの供述の信用性を高める補助証拠として機能する。

 よって、立証趣旨に即した立証は意味を持つため、上記事実がそのまま要証事実になる。

ウ 調書①全体は、公判期日外におけるQの供述を内容とする証拠であり(①)、供述内容が真実でなければ、要証事実を立証できないため、供述内容の真実性が問題となり、伝聞証拠に当たる。

 もっとも、検証と実況見分は強制処分か任意書文化の違いしかないため、実況見分調書は、検証調書に準じるものとして、321条3項の要件を満たせば証拠能力が認められる。

 よって、Qが、公判廷において真正作成供述を行えば、証拠能力が認められる。

エ 写真部分、説明部分は、公判期日外における甲の供述を内容とする証拠ではあるものの、この部分は実況見分の結果を記載した部分にすぎず、実況見分調書と一体として見ることができる。よって、別途同部分について伝聞例外の要件を満たす必要はない。

オ 以上より、調書①の証拠能力は認められる。

2 実況見分調書(以下、「調書②」)について

(1)調書②は、伝聞証拠にあたり、証拠能力が否定されないか。

ア 第2、1(1)アの基準で判断する。

イ 争点は上述のように、甲の犯人性である。そして、調書②の立証趣旨は、被害再現状況、すなわち被害を再現したこと自体である。

 もっとも、調書②において再現したことは、Sを犯人に見立てた被害状況であり、Vの被害は、後ろから、ゴルフクラブで胴部を殴られたという単純なものであり、犯行の物理的可能性が問題となる事案ではない。また、再現自体は、検察庁において行われており、再現自体の忠実性、厳密性が備わっているわけではない。そうすると、調書②において、被害状況と独立して、被害再現状況を立証趣旨として掲げる必要はなく、被害再現状況を立証したとしても、甲の犯人性立証に資さない、

 よって、本件は、立証趣旨に即した立証が意味を持たない例外的な場合であり、被害状況が要証事実となる。

ウ 調書②全体は、公判期日外におけるRの供述を内容とする証拠であり、内容が真実でなければ甲の犯人性を立証できないため伝聞証拠に当たる。

 もっとも、調書①と同様、Rが真正作成供述を行えば、321条3項により証拠能力が認められる。

エ 写真部分、説明部分は、公判期日外におけるV及びSの供述を内容とする(Sは、動作で供述をなしているといえる)、証拠で、同内容が真実でなければ甲の犯人性を推認できないため伝聞証拠に当たる。

 そして、V Sは、「被告人以外の者」であるから、321条1項柱書の要件を満たさなければならないところ、両者ともに署名押印がない。

 よって、伝聞例外の要件を満たさない。

オ 以上より、調書②の証拠能力は否定される。

 以上

 

刑訴はいいねぇ。期待を裏切らない問題。解きやすく論じやすい。

後輩の前期期末試験で領置が出題され、その解説をいただいていたので、解説通りに丁寧に論じた。捜査②は、答案構成段階では任意処分として処理するつもりだったが、論じている最中に、同じような高裁があったことを思い出し、急遽、強制処分法定主義違反で処理した。

実況見分調書もローの講義試験で嫌になる程学修したので、内心ウキウキで解いていた。

書き切れたし論じたいことを全て綴ることができたのでA評価予想だった。が、B評価。そもそも領置の論じ方が違うのか、強制処分法定主義違反で処理したことでBADが入ったか、実況見分調書について典型的な処理をしすぎたか、、、よくわからない。