令和5年司法試験 刑法 再現答案

120分(構成25分)7枚後半 予想B→A評価

 

第1 設問1(1)

1 甲に、Aの現金200万円に対する1項詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立する。

 「欺」く行為とは、処分行為に向けられた財産的処分行為をするための判断の基礎となる重要な事項を偽り人を錯誤に陥らせることをいう。もっとも、本件では、甲は、1回目・2回目の電話において、「現金の交付を求める文言を述べ」ていないため、欺く行為に着手したといえるか。「実行に着手」(43条本文)したといえるか問題となる

(1)実行に着手したか否かは、43条本文の文言条の制約からくる密接性と、未遂犯の実質的処罰根拠から導き出される法益侵害の現実的危険性の両者をもって判断する。危険性密接性の判断は、行為者の計画も考慮に入れた上で、準備的行為と構成要件該当行為との不可分性、時間的場所的接着性、準備的行為終了後障害となるような特段の事情の有無、準備的行為が成功する可能性等の諸事情を総合的に行使して決する。

(2)当てはめ再現できず

第2 設問2

1 乙と丙の、Bの手足をロープで縛り、床の上に倒し、Bの現金300万円をもってB卓から出て、Bに障害を負わせた行為について

(1)上記行為に、乙と丙に強盗致傷罪(240条前段)の共同正犯(60条)が成立しないか。なお、後述のとおり、両者と甲との間に共同正犯は成立しない。

ア 「財物」(236条1項)とは、他人が占有する財物をいうところ、現金300万円は、Bが占有する財物であるため、「財物」にあたる。

イ 「暴行」とは、財物奪取に向けられた相手方の犯行を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使をいい、かかる程度は、構成要件該当性の問題であるから、一般人を基準に社会通念に従って判断する。

 乙と丙は二人がかりで、Bの手足をそれぞれロープで縛り、口を粘着テープで塞ぎ、Bを床の上に倒している。ロープで縛れば、通常人は身動きが取れなくなり、相手方の指示に従うしかなくなるため、これをもって、相手方の犯行を抑圧するに足りる程度といえる。また、上記行為は、300万円の奪取という、財物奪取に向けられている。

 よって、「暴行」がある。

ウ 「強取」とは、暴行脅迫により、相手方の犯行を抑圧し、その意思によらずに、財物を自己または第三者の占有に移すことをいう。上述の通り、乙と丙は、Bに対して暴行を加え、Bはそれにより反抗抑圧状態に至り、Bの意思によらずにBの300万円を持ち去っているため、「強取」したといえる。

エ 故意(38条1項本文参照)とは、構成要件該当事実の認識認容をいうところ、両者は、上記行為を認識し、占有侵害結果を認容しているのだから、故意がある。

オ 両者に不法領得の意思たる権利者排除意思、利用処分意思も認められる。

 よって、強盗罪が成立し、「強盗が」(240条前段)といえる。

カ そして、Bは、転倒して頭を打ちつけ、傷害を負っている。

キ もっとも、同傷害は、上記乙と丙の暴行から直接生じたわけではなく、Bが転倒したことに起因している。そこで、乙と丙の行為と傷害結果との間に因果関係が認められるか問題となる。なお、強盗の機会性は問題とならない。乙と丙は財物奪取に向けられた暴行しか行っておらず、他にBに対して有形力の行使を行っていないからである。

(ア)刑法上の因果関係は当該行為が結果を引き起こしたことを理由に、より重い刑法的評価を加えることが可能な関係を認めうるかという法的評価の問題である。そこで、条件関係が認められることを前提として、当該行為が内包する危険が結果となって現実化したといえる場合に因果関係が認められる。その判断は、行為の危険性と介在事情の結果発生への寄与度を中心に諸事情を総合考慮して決する。

(イ)確かに、Bが頭部打撲の障害を負ったのは、Bが転倒して頭を塚に打ち付けたからであり、介在事情の結果発生への寄与度が大きい。しかし、それは、乙と丙が、Bをロープで縛り、床の上に倒したことにより、Bが長期間の緊縛による足の痺れが残っていたことに起因する。そうだとすれば、介在事情は、乙丙の行為に誘発されたと評価でき、介在事情の異常性が低い。

 以上に鑑みれば、乙と丙のBに対する不法な有形力の行使の危険性が、Bの傷害結果へと現実化したと評価できるため、因果関係が認められる。

 以上より、乙と丙に強盗致傷罪が成立する。

(2)上記行為に、甲に強盗致傷罪の乙と丙との共同正犯が成立しないか。

ア 自ら実行行為を行なっていないものであっても、相互利用補充関係に基づく共同犯行の一体的遂行からすれば、①共謀②共謀に基づく実行行為③正犯性が認められれば、共同正犯が成立する。

イ 三者は、設問1の計画に従い犯行することを計画しているため、1項詐欺罪の共謀(①)がある。

 もっとも、上述のように、上記丙と乙の行為は、新たに両者が共謀したことにより行われているため、上記行為が共謀に基づく実行行為といえるか。

 共犯の処罰根拠は、自己の行為が結果に対して因果性を与えた点にある。そこで、基づく実行行為と言えるためには、因果性が及んでいたか否かで決する。具体的には、行為態様の類似性、被侵害法益の同一性、動機目的の共通性をもって判断する。

 確かに、乙丙は、Bから300万円を得るために上記行為に及んでいるから、詐欺の共謀と動機目的を共通にする。しかし、強盗と詐欺では、意思に反する占有移転か、自己の意思に基づく占有移転かで行為態様が異なるし、相手方に傷害を加えるか否かにおいても行為態様が全く異なる。また、占有侵害という点で被侵害法益は共通するものの、身体についても侵害される点で被侵害法益が異なっている。さらに、乙と丙は甲の関与しないところで、自らロープや粘着テープを準備しているため、共謀の物理的因果性が及んでいたとはいえない。

 以上に鑑みれば、共謀の因果性が及んでいたと言えないため、基づく実行行為に当たらない。

ウ 以上より、甲に強盗致傷罪の共同正犯は成立しない。

第3 設問3

1 6の事実について、丁に業務妨害罪の成立を否定しつつ、7の事実について、丁に業務妨害罪の成立を肯定する立場

  • 以下再現できず。説の根拠と内容を提示して、それを事案に当てはめた。

以上

 

三日目。二科目しかないし、得意の、というよりは途中答案の心配がない刑事系だったので、かなり気楽に受験できた。会場についてからも全く緊張せず、今の自分を出し切るだけだなぁと思っていた。

実務家登用試験なのだから事例問題1題にしろ!!!(クソデカボイス)と心の中で叫び続けた。あと、自説書かせろ!!!とも。正直なところ、思考を上手く言語化できず、採点者に伝わるかなぁと不安になりながら論じていた。ただ、設問1、2、3共に全て知っている問題だったので、沈みはしないかなぁとも。

文章グチャグチャなので期待を込めてB予想で、A評価。7枚後半で書きまけなかったこと、全て知っている論点だったこと、丁寧に検討したことが勝因だと思う。弊ローの刑法はやっぱり強い。nrs先生ありがとう。