2021年度東北大学法科大学院前期入試 ステートメント

 東北大学法科大学院を受験するにあたり、ステートメント(志望理由書)を提出する必要がありました。大半の法科大学院は、ステートメントの提出が必須になっていることと思います。もっとも、ステートメントの内容について言及しているブログ・SNSページは、勉強方法・受験記録について言及しているものに比べて特に少なく、情報を入手するのが困難です。私自身、ステートメントをいかに書こうか苦渋しましたし、情報を集めようとしても、そもそもネット上に情報が存在していないため、何も得ることができず試行錯誤していました。
 以下は、私が実際に提出したステートメントの内容です。私と同じようにステートメントに悪戦苦闘している方が、この記事を読んで、ステートメントの一つの書き方として参考にしていただければ幸いです。

 

 私は、〇〇大学法学部法学科在学中に刑法ゼミナールに所属し、刑法分野を中心に学修を進めてきました。特に関心を持って取り組んだテーマは、スワット事件判決おける、謀議なき共謀共同正犯と間接正犯類似の理論構成についてです。
 私が所属する刑法ゼミにおいて、当該テーマについて研究を行っている刑法学者らの論文を読みつつ、時には他のゼミ生と協力しながら、共謀共同正犯なる概念を認めなければならない必要性や、「背後の黒幕」の処罰の必要性だけを強調して共謀共同正犯を認めることが処罰の正当性を根拠付けないことなど、刑法分野においては処罰の必要性と同様に処罰の正当性が重要な考慮要素になっている点について議論を行いました。こうした議論を踏まえ、練馬事件判決で、共謀共同正犯の成立要件として「謀議」が要求された後、スワット事件において黙示の謀議を認定し共謀共同正犯を成立させることは判例違反ではないかという問題について検討するとともに、謀議なき共謀共同正犯に適した理論構成はいかなるものかを熟考することによって、間接正犯類似の理論構成が適しているとの結論を得ることができました。当該テーマについて検討する際には、罪刑法定主義との関係で、刑法典の文言との整合性をとることができているか、共謀共同正犯の処罰を認める根拠はどこにあるか、個人責任の原則を逸脱していないかといった刑法の基本に何度も立ち返る必要に迫られたことで、それらが要求している本質は、応用が可能な考え方であると理解することができました。こういった学修は、刑事法の分野に明るく、多くの刑法学会に参加しているゼミ担当教授によるご指導も相まって、刑罰の持つ効果や、濫用の危険性を考慮しつつ、問題のより本質的な解決策を考えるにあたって非常に有益だったと考えています。
 〇〇大学在学中はこうした理論的学修のみならず、最高裁判所を訪問し最高裁判事から直接お話を伺い、実務についての理解を深めたり、裁判傍聴に行くことによって法曹三者の実務に対する姿勢を肌で感じたりと、理論面に留まらず、実務面においての学修も積極的に行ってきました。
 こうした学修に取り組んだことを踏まえ、私が法科大学院で学んだ後に法曹として仕事をする上で特に重点的に取り組みたいと考えているのは、刑事裁判における弁護活動と法教育に関する活動です。〇〇大学在学中、刑罰を科す必要性と正当性のバランスについて考察していくうちに、深く興味を持つようになりました。そして、これについて真摯に向き合える仕事が刑事弁護人であると考えました。社会に目を向けると、被告人・被疑者に対して、処罰の必要性を求めることが先行し、処罰の正当性を後回しにするような発言が見受けられます。私は、この社会の実態に疑問を抱くとともに、たとえ罪を犯した者であっても、その罪に見合った刑罰を科すべきであり、その手続きは、被疑者・被告人に対するいかなる人権侵害も伴って行われるべきではないと強く感じています。そのため、刑事弁護人となり、依頼人である被疑者・被告人の人権を確保するとともに、彼らの利益を最大限に実現していきたいと考えています。また、上記の社会の実態を変えていくためには、法教育の活動が必要不可欠であると考えています。被疑者や被告人に対する偏見や先入観を排除し、彼らと同じ目線に立って考えることの重要性や、自らが犯罪者になる可能性がゼロではないことを発信し、罪を犯していない者の権利はもちろんのこと、罪を犯した疑いのある者の権利さえも守られる社会作りに、法教育の観点から取り組んでいきたいと考えています。
 上記の目標を達成するためには、法解釈上の主要な争点についての判例と通説を理解することが最低限求められ、さらに、近年の有力説や少数説をも知る必要があります。刑事弁護人には、判例や通説に従ったままでは不当な結論に至る場合または既存の理論が想定していなかった事案に遭遇した場合に、別の解釈を示して対応することが求められるからです。また、法教育を支える実務家として活動するために、難解な法律用語や制度を日常用語に言い換える等非法律家に対して適切な意思疎通を図るための学修を行なっていく必要もあると考えています
 これらの知識・能力を培うために東北大学大学院法学研究科で学修し、貴学が「優れた法曹」として掲げる「冷静な頭脳と温かい心をもって社会を観察し、そこに問題を発見することができる」「他者とコミュニケーションをするための高い能力(理解力・表現力・説得力)がある」といった資質・能力を備えた法曹になり、上記の目標を達成したいと考えています。
 以上の理由から、私は東北大学大学院法学研究科において学ぶことを希望します。