令和5年司法試験 民事訴訟法 再現答案

120分(構成30分)5枚後半 予想B→A評価

 

第1 設問1

1 本件文書の証拠能力は否定されないか、

(1)民事訴訟法においては、自由心象主義(民事訴訟法(以下、略)247条)が採用されており、証拠方法の無制限も採用されている。それは、181条2項にも現れている。そうすると、不当な方法で収集された証拠方法も、全て証拠力の問題として処理すればよく、証拠能力を否定する必要はないようにも思える。

 しかし、不当な方法で収集された証拠方法を全て採用するとすれば、不当な証拠収集方法を助長し、公正な裁判所を害し、国民の司法に対する信頼を損なうことにつながる。そこで、訴訟上の信義則(2条)を根拠に、人格権を侵害し、反社会的な方法で収集された証拠の証拠能力は否定すべきである。

(2)Xが、本件メールを収集した方法は、Xがプライベートで利用しているアカウントのメールが閲覧可能な状態になっていることを利用し、Y自身のUSBメモリにXが送受信した全てのメールを保存するものであった。訴訟に関係しそうなメールのみを抜き出して保存するのみならず、すべてのメールを保存する行為は、Xのプライバシーを相当程度侵害するものである。また、Xがプライベートで使用しているパソコンからメールを保存しているため、Xの私生活がYに明かされることになる。さらに、Yは、Xの本件紛争が顕在化した後、本件紛争が訴訟に発展する可能性も高いと考え、Xに何らの相談なしに行為に及んでいる。

 以上に鑑みれば、本件文書は、人格権を侵害し、反社会的な方法で収集された証拠として、証拠能力が否定される。

第2 設問2

1(ア)―(ウ)すべてに共通する事項

 甲債権と丙債権が審理に含まれること、原判決が示した相殺の再抗弁の許容性、相殺の優先順位及び相殺の充当には変更がないことを前提とするため、(ア)―(ウ)においていかなる判決をすべきかは、もっぱら不利益変更禁止の原則(304条)との関係で問題となる。

 また、原審は、甲債権が存在し、乙債権と丙債権が相殺により消滅したことを理由に、Xの請求を認容しているから、原審がそのまま確定すれば、甲債権の存在(114条1項)及び、乙債権、丙債権の不存在(114条2項)について既判力が生じる。

 以上を前提に検討する。

2 (ア)について

 (ア)は、甲債権は弁済により消滅したとの判断に至っている。甲債権が弁済により消滅したことを理由に、Xの請求を棄却し、判決が確定したとすれば、生じる既判力は、甲債権の不存在(114条1項)のみであり、乙債権と丙債権に何ら既判力は生じない。「相殺をもって対抗した額」がないからである。

 そうすると、原審で生じた甲債権の存在という既判力を失わせるという意味で、控訴したXに不利益になるため、請求棄却判決をすれば、不利益変更禁止の原則に抵触する。

 よって、控訴を棄却(302条)すべきである。

3 (イ)について

 (イ)は、甲債権と乙債権はいずれも弁済による消滅はしていないが、丙債権の存在は認められないとの判断に至っている。

 かかる判断により、丙債権は存在しないため、乙債権と丙債権の相殺は生じず、甲債権と乙債権が相殺により消滅することとなる。そうすると、Xの請求は棄却となり、それが確定すれば、甲債権の不存在(114条1項)、乙債権の不存在(114条2項)に既判力が生じる。なお、丙債権は相殺の抗弁として提出されているところ、「相殺を持って対抗した額」がないため、丙債権についての既判力は生じない。

 そうだとすれば、原審で生じた甲債権の存在に対する既判力を失わせる点で、甲にとって不利益になるため、不利益変更禁止の原則に抵触する。

 よって、この場合も控訴を棄却すべきである。

4 (ウ)について

 (ウ)は、甲債権は弁済による消滅はしていないが、乙債権は弁済により消滅したとの判断に至っている。

 かかる判断により、甲債権と乙債権の相殺は生じず、甲債権が存在することになる。そうすると、Xの請求は認容となり、既判力は、甲債権の存在(114条1項)についてのみ及ぶ。乙債権は「相殺を持って対抗した額」がないし、丙債権も同様だからである。

 そうすると、原審で生じた甲債権の存在についての既判力を失わせることにはならず、不利益変更禁止の原則に抵触するわけではない。

 しかし、この場合、「第一審判決がその理由によれば不当である場合においても、他の理由により正当であるとき」(302条2項)に当たるため、この場合も控訴を棄却すべきである。

第3 設問3

1 課題1について

(1)甲債権の存在を認めた前訴確定判決に、既判力が生じ、同既判力がXのZに対する訴訟手続きにおいて作用するか。

ア Zは、前訴の当事者(115条1号)ではないし、他の同条各号事由にも当たらないから、原則として既判力は作用しない。

 もっとも、既判力とは、確定判決の判断内容に与えられる通用性ないし拘束力をいい、その趣旨は、紛争の終局的解決、正当化根拠は手続保障を前提とする自己責任にある。

 そこで、①その者に既判力を作用させる合理的必要性があって、②既判力が及ぶ者の手続保障が十分になされていれば、既判力が拡張される。

イ 前訴は、XのYに対する200万円の貸金返還請求訴訟であり、それが認容されているから、前訴既判力は、XのYに対する甲債権の存在に生じている。そして、Zは、甲債権を保証している。主債務(甲債権)が存在し、Zがそれを保証したとして前訴において補助参加した以上、保証債務も存在すると考えるのが素直であり、そもそも主債務の存在を争うのは紛争の蒸し返しに他ならない。よって、Zに既判力を作用させる合理的必要性はある。

 しかし、Zは、前訴において補助参加した際、免除の事実や、弁済の事実を主張した上で、免除の事実を証明するためにZ自身の証人尋問の申し出をしている。しかし、Yは、免除の事実を否定し、Zの証人尋問の申し出を撤回している。仮に免除の事実や弁済の事実が認められれば、甲債権は存在せず、付従性により保証債務も存在しないことになるため、Zに有利になるはずだった。にもかかわらず、上述のYの主張・撤回により、Zの主張の審理がなされていない。そうだとすれば、Zについて既判力を作用させる手続保障が十分だということはできない(②)

ウ よって、Zに既判力は作用しない。

(2)では、Zが、前訴に補助参加していることを根拠に、参加的効力(46条)が作用しないか。

 上述の通り、Yは、Xの免除の事実を否定し、Zの証人尋問の申し出を撤回している。そうすると、46条3号の「被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げたとき」に当たるため、参加的効力は及ばない。

(3)最後に、反射的効力は認められない。そもそも明文を欠くし、既判力と同様の効力は、後訴における当事者の訴訟行為の自由を奪うので、できる限り制限すべきだからである。

2 課題2について

 途中答案

 

民訴は相変わらずよくわからない出題をする。設問1は違法収集証拠、解いてる最中ずっと「刑訴で出せよ!!!」と思っていた。アガルートの論証ママで適当に書いた。設問2は不利益変更禁止の原則、ここでも渡辺先生の判例講座が役に立った。規範なしで当てはめオンリー、どう転ぶか不安だった。設問3は典型論点既判力反射効参加的効力。出題趣旨によるとここは争点効らしい、なんで???。設問2を丁寧に検討しすぎ(答案構成でも相当悩んだ)たせいで見事途中答案に終わる。

期待を込めてB予想、なぜかA評価。ローの友人の中には違法収集証拠が初見だった人もいて、自分が基本論点だと思っている部分でも論じることができない受験生がいる分、相対的に順位がよくなったのかなぁと思う。あと、自分なりに悩みを見せて説得力ある答案を自分の言葉で書くのが肝要なのかなぁ。

二日目終了。一日目と同様、親友と帰宅。再び町中華へ。今宵は固焼きそば。山場は超えてあとは弊ロー十八番の刑事系のみだったのでかなり気楽だった。