令和5年司法試験 行政法 再現答案

120分(構成27分くらい)7枚前半 予想A→A評価

 

第1 設問1(1)

1 本件解職勧告は、取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法(以下、略)3条2項)に当たるか。

(1)「処分」とは、①公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち(①公権力性)、その行為によって②直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの(②直接具体的法効果性)をいう。

(2)本件解職勧告は、法56条7項に基づき、B県知事が優越的地位に基づき一方的に行うものであるため、公権力性が認められる(①)

 ここで、勧告は、一般的に行政指導であり、事実行為に過ぎないため、本件解職勧告は直接具体的法効果性を有しないとの反論が想定される。そこで、法56条9項により、「弁明の機会」が設けられていることを根拠として、②を認めることができないか。

 本件解職勧告に、行政手続法(以下、「行手法」)所定の不利益処分と同様の手続きが取られているとすれば、本件解職勧告を不利益「処分」とみていることが推定されるため、②を認めることができる。しかし、行手法13条1項1号の聴聞手続きの対象は、いずれも、その処分により、国民の権利義務を直接形成するものであり、後述の通り、本件勧告とそれを同視することはできない。よって、この論拠を持って②を認めることはできない。

 では、病院開設中止勧告についての判例のロジックを用いて②を認めることができないか。同判例は、勧告が行政指導であり事実行為であることを前提として、勧告により、相当程度の確実さを持って保険医療機関の指定を受けられなくなり、事実上病院開設を断念せざるを得ないことを根拠に処分性を認めている。

 本件についてみるに、法は、本件解職勧告がなされた後に、それに違反したことを要件とする処分を規定しておらず、本件解職勧告により法的地位が変動する立場に立たされるということはできない。また、後続処分として予定されるのは、56条8項に基づく解散命令であるところ、解散命令の要件は、「法令、法令に基づいてする行政庁の処分若しくは定款に違反した場合」であり、勧告に従わなかった場合ではない。仮に、勧告が「処分」にあたり、勧告違反が解散命令の要件を構成するとしても、後述のように、解散命令には効果裁量が認められていることに加え、「他の方法により監督の目的を達することができないとき」という付加要件が課されているため、勧告違反により、相当程度の確実さをもって解散命令がなされると評価することはできない。

 よって、上記判例のロジックは妥当せず、本件解職勧告は直接具体的法効果性がない(②)

2 以上より、本件解職勧告は、「処分」に当たらない。

第2 設問1(2)

1 Dは、「法律上の利益を有する者」(9条1項)にあたり、原告適格が認められるか。

(1)「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害される恐れのあるものをいい、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合は、当該利益も法律上保護された利益にあたる。

 後述のように、Dは、準名宛人たる地位にいるため、9条2項の判断基準は用いない。

(2)確かに、本件解散命令の名宛人はAであり、Dが直接本件解散命令を受けるわけではない。もっとも、判例は、形式的には処分の相手方以外の第三者にあたるが、同処分により自己の権利を侵害されることを根拠に、処分の相手方に準じる者すなわち準名宛人として原告適格を認めている。

Aは、B県において特別養護老人ホーム及び老人デイサービスセンター等の複数の社会福祉事業を経営し、B県における社会福祉事業の中核になってきている。そして、法22条は、社会福祉法人を、「社会福祉事業を行うことを目的として・・・設立された法人」と規定しており、法は、社会福祉法人が同事業を行うことを想定している。そして、Dは、法45条の16第2項2号に基づく、Aの業務執行理事であり、社会福祉法人の業務を執行できる地位にいる。

法56条8項に基づく解散命令は、Aの法人としての実体を失わせるものであり、Aは、以後社会福祉事業を行うことができなくなる。その効果として、Dも、Aが行う社会福祉事業を執行することができなくなる地位に立たされる。そうすると、本件解散命令により、Dの、上記法律上認められた地位を剥奪することになるという意味で、本件解散命令は、Dの権利を侵害することになる。

2 よって、Dは本件解散命令により、自己の権利を侵害されるため、「法律上の利益を有する者」にあたり、原告適格が認められる。

第3 設問2(1)

1 「重大な損害」の有無についての判断は、25条3項の考慮事情を用いて判断する。

2 Aは、複数の社会福祉事業を経営している法人であり、解散命令が行われると、同事業を行うことができなくなることに加え、多数のAの福祉サービス利用者や、Aの従業員にも不利益が生じることを根拠に重大な損害があると主張する。

 これに対して、B県は、Aの経営基盤は不安定であり、これを放置すれば、Aの福祉サービス利用者の待遇が悪化し、B県におけるAの多数の利用者にも福祉サービス上の被害が及ぶことから、解散命令をしない方が、解散命令をするよりも損害が大きいことを根拠として、重大な損害がないと反論する。

 B県の反論を踏まえて、Aの主張を検討する。

3 判例は、弁護士に対する懲戒処分により、現在抱えている事件処理できなくなり、裁判の停滞や、依頼者弁護士間の信頼関係低下という、回復困難な損害が生じることを根拠に重大な損害を肯定している。

 本件では、解散命令により、社会福祉事業を行うことができなくなる結果、A社が社会福祉事業を行うことができなくなるだけでなく、そこで働いている従業員たちの生活の糧を奪うことになる。よって、解散命令により、生じる損害の範囲がそもそも広い。

また、Aは、B件における社会福祉事業の中核を担ってきており、これまでの経験で獲得した福祉サービス利用者を失うことになる。そして、一度サービス利用者を失えば、そのサービス利用者は他の施設を探して入所するため、再び入所してもらうことが困難になる。そうすると、損害回復は非常に困難である。

 以上に鑑みれば、Aは、解散命令がなされることにより「重大な損害」を被ると評価できる。

4 よって、Aは、上記のように主張すべきである。

第4 設問2(2)

1 前提として、本件解散命令にB県知事の裁量が認められるか検討する。

裁量の有無は、①根拠条文の文言②処分の性質から判断する。

本件解散命令の根拠条文たる法56条8項は、「できる」という文言を用いており、解散命令をするにあたってB県知事に裁量を認めていることが窺える。また、解散命令をするかしないかの判断にあたっては、法人がいかなる法人か及び法人が所在する地域に及ぼす影響を考慮する必要があるため、B県知事に、地域的専門技術的裁量の余地を認めるべきである。

よって、B県知事に、解散命令をするかしないかという効果裁量が認められる。

2 そこで、Aとしては、①本件解職勧告の拒否を重視したことが他事考慮にあたるとして、また②B県が公表していた実績資料の類似事案との比較において、平等原則(憲法14条)違反があるとして、裁量の逸脱濫用があり違法であると主張する。

 B県は、①について、本件解職勧告の重視は多事考慮に当たらない、②について、平等原則違反にはならないと反論する。

 以下、B県の反論を踏まえてAの主張を検討する。

3 前提として、上述のように、本件解散命令には、B県知事の効果裁量が認められるため、重要な事実の基礎を欠くかあるいは判断内容が著しく不合理である場合は、裁量の逸脱濫用として違法となる(30条)

(1)①について

 確かに、Aは、本件解職勧告に従うつもりがない旨を表明しており、同勧告に従っていない。しかしながら、それは、先の本件改善勧告、本件改善命令に起因している。すなわち、本件改善命令の前に、B県知事はAに対して、本件調査を命じているところ、本件調査が滞ったのは、Cと対立するDの非協力的態度に起因しており、Aは、B知事の指示に従おうとしていた。また、それは、Aが改善状況報告書を提出したことからも窺えるし、本件改善命令後もCはD対して積極的に事情聴取を行い、Dから、事実経緯の一部を聴取することができたことからも窺える。さらに、B県知事は今回の不正がDに起因していることを認識している。

 そうだとすれば、本件解職勧告の拒否は考慮すべき事項ではない。にもかかわらず、B県知事は同事項を考慮して、本件解散命令を行っているため、判断内容が著しく不合理であり、裁量の逸脱濫用である。

(2)②について

 B県が公表している実績視聴には、Aと同等の資産規模の法人が理事に対して無利子・無担保で1億5000万円を貸し付けたことを理由として改善命令が出されているところ、当該対預金が回収される等、改善措置が取られた事案では、解散命令までは命じられていない事案があった。本件は、同事案よりも金額が低い1億円の貸付金であり、さらにAは上述の通り、積極的にB県知事の命令に従おうとしていたため、処分をすべきでなかった。

 そうすると、過去の類似事案との比較において平等原則に違反しており、判断内容が著しく不合理であるため、裁量の逸脱濫用として違法である。

4 以上のように、Aは主張すべきである。

 以上

 

二科目連続(労働法・憲法)で面食らったので、割とどうでもよくなってしまった。故に、全く緊張せず、リラックスした(今思うと、し過ぎていた)状態で解くことができた。

今年の行政法の問題は、例年に比べ飛び抜けてわかりやすく、誘導も丁寧だったので、問題の所在及び規範は迷うことなく書くことができた。裁量論も、効果裁量に着目しつつ、他事考慮、平等原則違反という法律構成を余すことなく書いた。

A評価予想でA評価。問題文の事情を使い切ること、思考過程を答案に表現することが肝要であると思った。

 

一日目が終わりローの親友と帰宅。問題の内容には触れないようにしつつ感想を共有。帰宅時にちょうど雨が上がり、虹がかかっていたのが印象的だった。試験により過度なストレスを感じたので、町中華で美味しい美味しい蟹玉定食を食べた。大将の味が沁みたぁ、、、。
TKC模試の一日目の終了後、二日目の科目の総復習をしようと思ったところ、脳疲労で全く勉強できなかった経験を活かし、かつ、睡眠不足だったこともあり、帰宅風呂後即就寝した。