令和5年司法試験 民法 再現答案

時間120分(構成25分)6枚前半 予想B→B評価

 

第1 設問1(1)

1 請求1について

(1)請求1は、共有持分権に基づく返還請求権としての、甲建物明渡請求である。もっとも、Dは、短期配偶者居住権(1037条)が成立しているとして、占有権原を主張できないか(下線部ア)。

ア Aは、死亡前にDと再婚しているため、Dは、「配偶者」にあたる。

イ そして、Dは、A死亡時すなわち「相続開始の時」(882条)に、「無償で」甲建物に「居住」していた。さらに、1037条1号、2号のいずれにも当たらない。

 よって、短期配偶者居住権が成立する。

(2)もっとも、Dは、Aに子B及びCがいることを知っていたにもかかわらず、BCの同意を得ず高建物の改築工事を行なっている。かかる改築工事は、共有物の変更にあたり、BCの同意を得なければならない(251条)。そこで、Dが同権利による占有権限を主張するのは権利濫用(1条3項)にならないか。

ア 上記のように、原則として、共有物の変更には共有者の同意が必要である。しかし、長年かかる共有物に関与してなかった等の事情がある場合、同共有物について、他の共有者の関心がないのが通常である。

 そこで、かかる共有物に他の共有者が長年関与していなかった事情がある場合は、占有権限の主張は権利濫用にならない。

イ 本件においては、甲建物の共有者であるBCは、成人後いずれも他県で居住するようになり、甲建物に長年関与していなかった。

 よって、上記の事情があるため、Dが、無断で共有物の変更をしたことを持って、占有権限の主張が権利濫用になるわけではない。

(3)以上より、Dは、請求1を拒むことができる。

2 請求2について

(1)上記の通り、Dは、占有権限があるため、無償で甲建物を使用でできる。

 よって、請求2も拒むことができる

第2 設問1(2)

1 請求1

黙示の使用貸借成立肯定、全体を使用する権利を有する。占有権原の抗弁ok

2請求2

 「別段の合意」(249条)に引き付け。

第3 設問2

1(1)について

(1)Eは、Fの受領遅滞を理由として、債務不履行に基づく解除(541条)を行う。

 もっとも、Fに受領義務を認めることができるか。なお、代金支払い債務は不履行に陥っていない。本件コイの引渡しから、2ヶ月以内に支払うことが合意されているからである。

ア 民法は、受領遅滞の効果として、注意義務の軽減(413条1項)と、増加費用の債権者負担(同条2項)のみ規定しており、受領義務を明示的に認めていない。

 もっとも、私的自治の原則の下、契約の拘束力を重視すべきである。

 そこで、信義則(1条2項)を根拠に、受領することが契約内容となっている場合は、受領義務を肯定する。

イ 本件においては、本件コイについての売買契約が成立し、本件コイをEの事務所で引渡し、その引渡後に代金を支払うことが合意されている。本件コイをFが受領しなければ、Eは代金の支払いを受けることができず、契約を締結した目的を達成できない。

 よって、Fが、本件コイを受領することが契約の内容をなしているため、Fに受領義務がある。にもかかわらず、Fは、Eの事務所に本件コイをとりに行っていないのであるから、同義務違反がある。

 よって、Fは、「債務を履行しない」と言える。

(2)Eは、Fに対し、令和4年10月30日までに本件コイを受け取りに来なければ、同月31日付で契約①を解除する旨告げているのであるから、「相当の期間を定めてその履行の催告」をしている。

(3)しかし、Fは、その期間内に受領義務を履行していない。

(4)Fが、本件コイを受領しなければ、Eは代金を受け取ることができないのであるから、その不履行が軽微であるとも言えない(541条但書)

(5)本件において、債権者であるEの「責に帰すべき事由」(543条)はない。

(6)以上より、Eの解除の主張は認められる。

2 (2)について

(1)Eは、Fの受領遅滞を理由に、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)行う。同要件は、①債務不履行②損害③①と②との因果関係④帰責事由である。

ア 上述のように、Fには受領義務違反という債務不履行がある。

イ Fは、自己の意思で両義務を履行していないため、帰責事由がないとはいえない。

ウ もっとも、本件コイの相場が、令和8月はじめには1万円だったものの、11月には6000円まで下がっている。そこで、損害がいくらか、Fの受領義務違反と因果関係のある損害は何かが問題となる。

 損害とは、債務不履行がなされた現在の状態と、債務不履行が無ければ有していたであろう状態との差額(差額説)であり、損害の範囲は416条によって画されている。「当事者」とは債務者を指し、算定時期は、債務不履行時を指す。債務者に事情の予見可能性があれば、特別損害まで負わせても不当ではないし、金銭賠償の原則(417条)から、損害賠償請求権の金銭的評価が可能となる時点で、損害賠償額を算定するのが妥当だからである。

 営業利益はダメ

第4 設問3

1 物上代位の対象が転貸料債権に及ぶか→k(アガルートママ)→及ぶ 5月分おk

2 6月分以降は、弁済期経過後であり、債務不履行後なので、371条用いて問題なく及ぶとした

以上

 

一日目とは打って変わって、22時就寝6時半起きの8時間半熟睡をキメることができたため、昨日の脳疲労が嘘のようにスッキリしていた。試験にも慣れ、平常心で解くことができたと思う。相変わらず問題冊子を破るのは難しい。

設問1は、TKC模試で出題された配偶者居住権がメインだったので、ガッツポーズしつつ丁寧に要件検討を行った。設問2、3共に、アガルートの論証集に載っている論点そのものだったため、問題の所在に迷うことはなかったが、当てはめが難しく、再現もできないほどグチャグチャな文章を書いてしまった記憶がある。

当てはめに自信がなかったので貰えてB評価予想、案の定B評価だった。問題の所在を間違えず規範定立ができれば、相対的に沈むことはないのだなぁと実感。

令和5年司法試験 行政法 再現答案

120分(構成27分くらい)7枚前半 予想A→A評価

 

第1 設問1(1)

1 本件解職勧告は、取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法(以下、略)3条2項)に当たるか。

(1)「処分」とは、①公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち(①公権力性)、その行為によって②直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの(②直接具体的法効果性)をいう。

(2)本件解職勧告は、法56条7項に基づき、B県知事が優越的地位に基づき一方的に行うものであるため、公権力性が認められる(①)

 ここで、勧告は、一般的に行政指導であり、事実行為に過ぎないため、本件解職勧告は直接具体的法効果性を有しないとの反論が想定される。そこで、法56条9項により、「弁明の機会」が設けられていることを根拠として、②を認めることができないか。

 本件解職勧告に、行政手続法(以下、「行手法」)所定の不利益処分と同様の手続きが取られているとすれば、本件解職勧告を不利益「処分」とみていることが推定されるため、②を認めることができる。しかし、行手法13条1項1号の聴聞手続きの対象は、いずれも、その処分により、国民の権利義務を直接形成するものであり、後述の通り、本件勧告とそれを同視することはできない。よって、この論拠を持って②を認めることはできない。

 では、病院開設中止勧告についての判例のロジックを用いて②を認めることができないか。同判例は、勧告が行政指導であり事実行為であることを前提として、勧告により、相当程度の確実さを持って保険医療機関の指定を受けられなくなり、事実上病院開設を断念せざるを得ないことを根拠に処分性を認めている。

 本件についてみるに、法は、本件解職勧告がなされた後に、それに違反したことを要件とする処分を規定しておらず、本件解職勧告により法的地位が変動する立場に立たされるということはできない。また、後続処分として予定されるのは、56条8項に基づく解散命令であるところ、解散命令の要件は、「法令、法令に基づいてする行政庁の処分若しくは定款に違反した場合」であり、勧告に従わなかった場合ではない。仮に、勧告が「処分」にあたり、勧告違反が解散命令の要件を構成するとしても、後述のように、解散命令には効果裁量が認められていることに加え、「他の方法により監督の目的を達することができないとき」という付加要件が課されているため、勧告違反により、相当程度の確実さをもって解散命令がなされると評価することはできない。

 よって、上記判例のロジックは妥当せず、本件解職勧告は直接具体的法効果性がない(②)

2 以上より、本件解職勧告は、「処分」に当たらない。

第2 設問1(2)

1 Dは、「法律上の利益を有する者」(9条1項)にあたり、原告適格が認められるか。

(1)「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害される恐れのあるものをいい、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合は、当該利益も法律上保護された利益にあたる。

 後述のように、Dは、準名宛人たる地位にいるため、9条2項の判断基準は用いない。

(2)確かに、本件解散命令の名宛人はAであり、Dが直接本件解散命令を受けるわけではない。もっとも、判例は、形式的には処分の相手方以外の第三者にあたるが、同処分により自己の権利を侵害されることを根拠に、処分の相手方に準じる者すなわち準名宛人として原告適格を認めている。

Aは、B県において特別養護老人ホーム及び老人デイサービスセンター等の複数の社会福祉事業を経営し、B県における社会福祉事業の中核になってきている。そして、法22条は、社会福祉法人を、「社会福祉事業を行うことを目的として・・・設立された法人」と規定しており、法は、社会福祉法人が同事業を行うことを想定している。そして、Dは、法45条の16第2項2号に基づく、Aの業務執行理事であり、社会福祉法人の業務を執行できる地位にいる。

法56条8項に基づく解散命令は、Aの法人としての実体を失わせるものであり、Aは、以後社会福祉事業を行うことができなくなる。その効果として、Dも、Aが行う社会福祉事業を執行することができなくなる地位に立たされる。そうすると、本件解散命令により、Dの、上記法律上認められた地位を剥奪することになるという意味で、本件解散命令は、Dの権利を侵害することになる。

2 よって、Dは本件解散命令により、自己の権利を侵害されるため、「法律上の利益を有する者」にあたり、原告適格が認められる。

第3 設問2(1)

1 「重大な損害」の有無についての判断は、25条3項の考慮事情を用いて判断する。

2 Aは、複数の社会福祉事業を経営している法人であり、解散命令が行われると、同事業を行うことができなくなることに加え、多数のAの福祉サービス利用者や、Aの従業員にも不利益が生じることを根拠に重大な損害があると主張する。

 これに対して、B県は、Aの経営基盤は不安定であり、これを放置すれば、Aの福祉サービス利用者の待遇が悪化し、B県におけるAの多数の利用者にも福祉サービス上の被害が及ぶことから、解散命令をしない方が、解散命令をするよりも損害が大きいことを根拠として、重大な損害がないと反論する。

 B県の反論を踏まえて、Aの主張を検討する。

3 判例は、弁護士に対する懲戒処分により、現在抱えている事件処理できなくなり、裁判の停滞や、依頼者弁護士間の信頼関係低下という、回復困難な損害が生じることを根拠に重大な損害を肯定している。

 本件では、解散命令により、社会福祉事業を行うことができなくなる結果、A社が社会福祉事業を行うことができなくなるだけでなく、そこで働いている従業員たちの生活の糧を奪うことになる。よって、解散命令により、生じる損害の範囲がそもそも広い。

また、Aは、B件における社会福祉事業の中核を担ってきており、これまでの経験で獲得した福祉サービス利用者を失うことになる。そして、一度サービス利用者を失えば、そのサービス利用者は他の施設を探して入所するため、再び入所してもらうことが困難になる。そうすると、損害回復は非常に困難である。

 以上に鑑みれば、Aは、解散命令がなされることにより「重大な損害」を被ると評価できる。

4 よって、Aは、上記のように主張すべきである。

第4 設問2(2)

1 前提として、本件解散命令にB県知事の裁量が認められるか検討する。

裁量の有無は、①根拠条文の文言②処分の性質から判断する。

本件解散命令の根拠条文たる法56条8項は、「できる」という文言を用いており、解散命令をするにあたってB県知事に裁量を認めていることが窺える。また、解散命令をするかしないかの判断にあたっては、法人がいかなる法人か及び法人が所在する地域に及ぼす影響を考慮する必要があるため、B県知事に、地域的専門技術的裁量の余地を認めるべきである。

よって、B県知事に、解散命令をするかしないかという効果裁量が認められる。

2 そこで、Aとしては、①本件解職勧告の拒否を重視したことが他事考慮にあたるとして、また②B県が公表していた実績資料の類似事案との比較において、平等原則(憲法14条)違反があるとして、裁量の逸脱濫用があり違法であると主張する。

 B県は、①について、本件解職勧告の重視は多事考慮に当たらない、②について、平等原則違反にはならないと反論する。

 以下、B県の反論を踏まえてAの主張を検討する。

3 前提として、上述のように、本件解散命令には、B県知事の効果裁量が認められるため、重要な事実の基礎を欠くかあるいは判断内容が著しく不合理である場合は、裁量の逸脱濫用として違法となる(30条)

(1)①について

 確かに、Aは、本件解職勧告に従うつもりがない旨を表明しており、同勧告に従っていない。しかしながら、それは、先の本件改善勧告、本件改善命令に起因している。すなわち、本件改善命令の前に、B県知事はAに対して、本件調査を命じているところ、本件調査が滞ったのは、Cと対立するDの非協力的態度に起因しており、Aは、B知事の指示に従おうとしていた。また、それは、Aが改善状況報告書を提出したことからも窺えるし、本件改善命令後もCはD対して積極的に事情聴取を行い、Dから、事実経緯の一部を聴取することができたことからも窺える。さらに、B県知事は今回の不正がDに起因していることを認識している。

 そうだとすれば、本件解職勧告の拒否は考慮すべき事項ではない。にもかかわらず、B県知事は同事項を考慮して、本件解散命令を行っているため、判断内容が著しく不合理であり、裁量の逸脱濫用である。

(2)②について

 B県が公表している実績視聴には、Aと同等の資産規模の法人が理事に対して無利子・無担保で1億5000万円を貸し付けたことを理由として改善命令が出されているところ、当該対預金が回収される等、改善措置が取られた事案では、解散命令までは命じられていない事案があった。本件は、同事案よりも金額が低い1億円の貸付金であり、さらにAは上述の通り、積極的にB県知事の命令に従おうとしていたため、処分をすべきでなかった。

 そうすると、過去の類似事案との比較において平等原則に違反しており、判断内容が著しく不合理であるため、裁量の逸脱濫用として違法である。

4 以上のように、Aは主張すべきである。

 以上

 

二科目連続(労働法・憲法)で面食らったので、割とどうでもよくなってしまった。故に、全く緊張せず、リラックスした(今思うと、し過ぎていた)状態で解くことができた。

今年の行政法の問題は、例年に比べ飛び抜けてわかりやすく、誘導も丁寧だったので、問題の所在及び規範は迷うことなく書くことができた。裁量論も、効果裁量に着目しつつ、他事考慮、平等原則違反という法律構成を余すことなく書いた。

A評価予想でA評価。問題文の事情を使い切ること、思考過程を答案に表現することが肝要であると思った。

 

一日目が終わりローの親友と帰宅。問題の内容には触れないようにしつつ感想を共有。帰宅時にちょうど雨が上がり、虹がかかっていたのが印象的だった。試験により過度なストレスを感じたので、町中華で美味しい美味しい蟹玉定食を食べた。大将の味が沁みたぁ、、、。
TKC模試の一日目の終了後、二日目の科目の総復習をしようと思ったところ、脳疲労で全く勉強できなかった経験を活かし、かつ、睡眠不足だったこともあり、帰宅風呂後即就寝した。

令和5年司法試験 憲法 答案構成

構成25分 7枚前半 予想B→C評価

 

第1 設問1

1 年齢による区別14条違反について

 法内容の平等、相対的平等、14条限定列挙、「身分」は人が社会において占める継続的な地位であり年齢は一年間その年齢で過ごすという意味で社会において占める継続的な地位だから後段列挙自由にあたり厳格審査

 目的立法事実がない、で終わり

2 性別14条違反

 後段列挙自由「性別」に該当

 目的立法事実なし

3 25条違反

 抽象的権利、具体化されているから、保障されている

 生きる権利そのもの、制度後退禁止→厳格審査

 目的OKだとしても、手段がダメ

4 既存受給者の25条違反

 上に同じ

第2 設問2

1 14条違反

(1)反論

例示列挙

(2)私見 

 例示列挙+①被侵害利益の重要性と②自助努力で脱却できるか

 でも、立法裁量(堀木訴訟)→裁量の逸脱濫用→なし

2 25条

(1)反論

制度後退禁止は根拠ない

(2)私見

制度後退禁止根拠なし+裁量→裁量の逸脱濫用→なし

3 既存の25条

(1)反論

記憶なし

(2)

期待的利益に鑑みて、立法裁量を収縮させるべき

収縮した裁量の範囲は超えてるから違憲

以上

 

労働法で面食らっていたので、気楽に解いた。怪しいと思っていた25条が出題されたので、内心ウキウキした(政教分離が出ると思っていたので、その意味で憲法でも面食らった。)。幸いにも、アガルート講師・渡辺先生の判例スピード講座で、憲法の学説判例について一通り勉強していたので、知識面で遅れをとることはないだろうと思っていた。しかし、問題の所在が多く、構成に多くの時間を割いてしまったため、知識を答案にうまく表現できなかった。

期待を込めてB評価と予想していたが、C評価。表面的な知識を列挙したに過ぎず、問題に具体的に引き付けて論じることができなかった点が敗因と思われる。

 

令和5年司法試験 労働法 再現答案

第1問 

時間90分(構成15分)4枚丁度 

 

第1 設問1(以下、条文数のみは労働契約法)

1 Xは、Y社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求を行う。もっとも、Y社は、Xを、Y社就業規則(以下、「Y規則」)35条に基づき、自然退職したものとしているため、両者間の労働契約は終了しているのではないか。

(1)前提として、Xの休職がそもそも有効か問題となる。私傷病休職制度は、「合理的」(7条本文)であり、Y規則31条に定めがあり「周知」されている。そうすると、私傷病休職制度は、XY社間の労働契約の内容になっている。そして、Xは令和元年9月ごろ、私傷病であるうつ病を発病しているから、Y規則31条1号の「私傷病」により、「なお就労することができない」といえる。

 よって、Xの休職は有効である。

(2)もっとも、Y規則34条は、31条1号の事由により休職を命ぜられた社員が復職しようとするときは、「復帰が可能」と認めた時、「復職を命ずるもの」と定めている。そうすると、Xの「復帰が可能」な場合、Y社は、Xに対して復職を命じなければならない。そこで、Xの「復職が可能」か否か問題となる。

ア 前提として、XY社間で職種・勤務地限定合意が成立していたか検討する。合意が成立していたか否かは、当事者の合理的意思解釈により決する。

 Xは、約500名の社員を擁するIT企業Y社に、担当職種の限定なく、期間の定めのない労働契約を締結し、プログラマーシステムエンジニアとして就労を始めている。そうすると、職種限定合意が成立していたとは考え難いし、その他に職種限定合意、勤務地限定合意が成立していたことを窺わせる事情はない。

 よって、両者間に同合意は成立していない。

イ 次に、Xが他の職種に就労できることをもって、「債務の本旨に従っ」た(民法493条)履行があり、「復帰が可能」ということができないか。

 ①労働者が職種や業務内容を締結せずに労働契約を締結した場合において、②その能力、経験、地位、企業における労働者の配置・移動の実情及び難易等に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ③その提供を申し出ているならば、「債務の本旨」に従った履行がある。そのように解さなければ、当該労働者の能力、経験、地位等に関わりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が「債務の本旨」に従ったものになるか否かが左右されることになり不合理だからである。

 上述のように、Xは、担当職種の限定なく、期間の定めのない労働契約を締結している(①)。また、Y社は、500名の社員を擁するIT企業であり、比較的規模が大きい。そうするとY社において、Xがプログラマー兼エンジニア以外に配置される現実的可能性がある他の業務が存在していたといえる。

 そして、主治医Aから交付された診断書には、復職は、「不可能ではないが、複雑な業務の遂行は未だ困難と思われる」と記載されているのみであり、Xは複雑な業務以外、すなわち事務職等であれば職務を遂行できる可能性があった。よって、Xは、Xが配置される現実的可能性のある他の業務について労務の提供をすることができる(②)

 しかし、判定委員会がXに対して、復職は難しい旨伝えた際、Xは、「プロジェクトリーダーとして期待される役割を全うする自信はある」等といい、現職での復帰を強く希望している。それを踏まえて判定員会が、復職可能とは認められないと判定しているため、Xは、②の業務について労務の提供を申し出ているとはいえない(②)

 よって、③を満たさず、Xは、「債務の本旨」に従った履行の提供をしていない。

(3)そうすると、Xは、「復帰が可能」といえず、さらに、令和3年6月30日をもってY規則35条所定の「33条の期間を満了しても復職することができない」といえるから、Xは同条により自然退職となる。

2 以上より、Y社がXを自然退職したものとしたことは妥当であり、Xの請求は認められない。

 

第2 設問2

1 Xは、Y社に対して、①労働契約上の権利を有することの地位確認請求及び②未払い賃金請求を行う。もっとも、Y社は、Xを、Y規則35条に基づき自然退職したものとみなしているため、両者間の労働契約は終了しているのではないか。

(1)前提として、Xの休職期間延長が有効か問題となる。Xは、「私傷病」により、休職しているため、「31条1号の事由による休職」(Y規則33条柱書本文)をしたといえる。また、Xは、平成15年4月から、Y社との間で労働契約を締結しているから、「勤続年数が10年を超える者」(同条3号)にあたる。よって、Y社は、1年6ヶ月を超えない範囲で、Xに休職を命じうるところ、Y社は、Xに対して2ヶ月の延長を指示しているため、Xの休職期間延長は有効である。

(2)次に、Y社は、Xに対して、休職延長期間を延長し、その間軽易な業務を行わせている。そこで、この軽易な業務に就労可能であることをもって、「復職が可能」(Y規則34条)か。上述のように、XY社間で職種・勤務地限定合意は成立していないため、第1、1(2)イの基準で「復帰が可能」か判断する。

 Y社は、Xに対して、「週3日の隔日勤務、勤務時間を午後1時から午後5時までの4時間とし、就労状況を観察して徐々に業務量や労働時間を増やしていく」という案を提示し、X を、本社総務課の事務職として就労させている。上述の通り、A作成の診断書には、復職は、「不可能ではないが、複雑な業務の遂行は未だ困難」と記載されているのみである。そうすると、同診断書に基づけば、Xは、複雑な業務を伴わない、事務職に就労することが可能であり、Y社において、Xが配置される現実的可能性のある他の業務が存在するといえる。

 しかしながら、Xは、かかる軽易な業務をもってしても、2年間ほどで体調不良となり、同月中旬頃から欠勤を重ねるに至っている。また、Xは、本社総務課で就労を再開した際の労働条件が加重であったと主張するが、事務課における業務は、定型的な業務が中心であり、さらに、システム開発課における業務よりも日々の繁忙度は低かったのだから、この主張は妥当でない。そうすると、Xが配置される現実的可能性のある業務があるとしても、Xは、かかる業務に就労することができないと評価できる(②)。

 よって、Xは、「復帰が可能」といえず、Y社がXに復帰を命じなかったのは妥当であるため、Xは、Y規則35条より、自然退職したものとみなされる。

(3)以上より、請求①は認められない。

2 もっとも、Xは体調不良になる前の二週間は、Y社より命じられた事務職について就労しているため、同期間のみ「債務の本旨に従っ」た履行がある。

 よって、同期間のみの未払い賃金請求は認められる(②)。

以上

第2問

時間90分(構成15分)4枚丁度 
 

第1 設問1(以下、条文数のみは労働組合法)

1 C組合は、行政救済として、労働委員会に対し、A社がC組合の団体交渉の申し入れを拒否したことが、団交拒否(7条2号)に当たることに基づき、団交応諾命令、ポストノーティス命令を求めて、不当労働行為救済申立てを行う(27条)

 もっとも、C組合の組合員は、B社に雇用されている労働者であるため、C組合員とA社は労働契約の当事者ではない。そこで、A社がC組合員の「使用者」(7条柱書)といえるか問題となる。

(1)労組法の趣旨は、「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図る」(2条柱書本文)ために団体交渉を促進する点にある。とすれば、労組法上の「使用者」を労働契約の当事者に限定する必要はない。

 具体的には、基本的な労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にある者は、その限りで、「使用者」に当たる。

(2)確かに、C組合の組合員は、B社に雇用されており、A社と労働契約上の当事者関係にない。しかし、B社は、労働者派遣事業その他の事業を営む会社であり、その雇用する添乗員をA社に派遣している。そして、派遣された労働者は、基本的には、A社が各ツアーの催行に際し旅程を踏まえて作成する計画書に基づいて添乗業務に従事していた。また、A社は、同労働者に、業務従事日には日報を提出させ、必要に応じて添乗員に連絡すること等により、添乗員が、添乗業務に従事する時間の管理を行なっていた。そうすると、A社は、B社より派遣された労働者の労働時間について管理、決定する立場にあり、同労働者の労働時間に関する労働条件を自由に決定する地位にあったといえる。

 そして、C組合が、A社に対して団交を申し入れた事項は、C組合の組合員である添乗員の労働時間管理の改善に向けた事項であり、まさに、A社が決定できる事項である。

 よって、A社は、同申し入れ事項に限り「使用者」に当たる。

2 そして、上記の通り、A社の、B社に雇用されている添乗員で組織する労働組合であるC組合との団体交渉に応じる立場にはないとの主張は妥当でなく、さらに「正当な理由」(7条2号)を窺わせる他の事情はないため、A社の申し入れ拒否は、団交拒否に当たる。

3 以上より、C組合の請求は認められる。

第2 設問2

1 Dは、令和3年協約に基づき、支払い猶予分の賃金及び、遅延損害金の支払い請求をおこなう。

 前提として、C組合とA社との間で、令和3年協約が締結されていることから、Dに同協約の規範的効力(16条)が及び、DとA社との労働契約の内容をなしているか問題となる。

(1)労働協約の締結にあたっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常だから、その一部のみを捉えて有利不利ということ妥当でない。もっとも、労働組合は、「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的」とする(労組法2条柱書)から、労働協約が特定または一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結されたと認められる場合には、同協約の規範的効力が及ばない。具体的には、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、手続きにかかる事情を総合判断して決する。

(2)確かに、基本給1割の猶予は、働いた月に基本給が支払われない点で、労働者の経済生活に少なからぬ影響を及ぼす。しかし、それは基本給の1割に過ぎず、今まで支払われていなかった割増賃金は月末に払われることになるため、Dに与える不利益が大きいとはいえない。また、B社の事業は、近年低調で、経営が悪化していたため、割増賃金と基本給の調整をする高度の必要性があった。さらに、令和3年協約は、C組合の規約に定められた手続きを経て締結されているため、必要な手続きも踏んでいる。

 以上に鑑みれば、令和3年協約は、Dという特定の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたとはいえず、労働組合の目的を逸脱して締結したとはいえない。

 よって、令和3年協約は、DB社間の労働契約の内容になっている。

2 もっとも、続けて、C組合とB社は、令和5年協約を締結し、支払猶予分の賃金債権を放棄する旨の合意に達している、そこで、同協約が、DB間の労働契約の内容をなしているのではないか。

(1)第2、1(1)の基準で判断する。

(2)前提として、賃金債権の放棄は、「賃金」の「一部を控除」(労基法24条1項但書)するものに他ならないから、同項但書の要件を具備する必要がある。

C組合は、B社に雇用されている添乗員の6割で組織する労働組合であるから、「過半数で組織する労働組合」に当たる。そして、C組合とB社は労働協約を締結しているため、「書面による協定」がある。

よって、同項但書の要件を満たす。

確かに、支払猶予分の賃金債権放棄は、基本給1年分の1割の請求権を放棄するものであり、C組合員に与える不利益の程度は大きい。しかし、同協約を締結する際のB社の経営状態は、令和3年協約締結時よりもさらに悪化しており、令和3年協約で合意された、支払猶予分の賃金の支払いを行うことができていない、そして、賃金債権を放棄しなければ、B社が組合員の解雇に踏み切ったり、将来に渡り、賃金を減額する措置に出たりする事態に陥る等、賃金債権の放棄以上の不利益を被ることが予想される。そうすると、令和5年協約を締結する高度の必要性があった。

 内容としても、上述の通り、基本給の1割であり、解雇や賃金減額に比べれば相当であるといえるし、令和5年協約も、令和3年協約と同様、必要な手続きを踏んだ上で締結しているため、手続きの妥当性もある。

 よって、令和5年協約に規範的効力が生じ、D A社間の労働契約の内容をなしているため、Dの請求は認められない。

 以下を、第1、2の冒頭に挿入

 A社が、団体交渉を「正当な理由がなく」拒んだといえるためには、少なくともC組合が申し入れた事項が義務的団交事項にあたる必要がある。

 労組法は、「労働者が使用者との交渉において対等な立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」等を目的としていること(同法1条1項)に鑑みれば、義務的団交事項とは、①組合員たる労働条件その他経済的地位に関する事項又は、労使関係の運営に関する事項であって、②使用者に処分権限があるものをいう。

 C組合がA社に申し出ている事項は、労働時間管理の改善に向けた事項であるところ、B社雇用の労働者の労働時間という労働条件に関する事項にあたる(①)

 そして、上述のように、A社は、B社から派遣されている労働者の労働時間について管理する地位にあるのだから、労働時間についてA社に処分権限があるといえる(②)。

 よって、C組合の申し入れ事項は義務的団交事項にあたる。

以上

 

一科目目+極度の睡眠不足ということで、多少の焦りがあった。あと、問題冊子破りづらい><

第1問は、問題となる論点がわからず大分困惑した。アガルートの論証には休職制度プロパーの論証は載っておらず、休職制度を扱っていたH28年司法試験を想起して、丁寧に条文検討を行い、問題の所在を洗い出した。設問2については、設問1との違いがわからず、やっつけで設問1と同様の規範を用いた。

第2問・設問1は、労組法上の使用者概念が問題になることが問題文から明らかだったので、アガルートの規範をそのまま用いようとした。が、規範をド忘れするという脳内バグが生じ、冷や汗で答案がびしょびしょに濡れそうになった。結果的に思い出すことができたので良かったが、このような経験は二度とゴメンだ。義務的団交事項について検討するのを忘れていたが、なんとか思いつき最後に無理矢理挿入した。設問2は、問題の所在がわからず、労働協約の拘束力の問題として適当に処理した。

よくわからない問題で、判然としなかったため、もらえて50点だろうなと予想していた。予想に反して62点だったことを踏まえると、労働法は、たとえ論点がわからずとも、丁寧な条文検討と、問題文の事情を使い切ることで沈まない答案を作成できるようだ。