2021年度東北大学法科大学院前期入試 再現答案 商法

第1問

 詐害的事業譲渡の場合、残存債権者の利益を無視して、優良資産や換価可能な資産を譲受会社に譲渡し、換価が困難な資産を譲渡会社に残すことが考えられる。この場合、会社債権者の債権の唯一の担保は会社財産であるため、譲渡会社に対してのみ履行の請求ができるとすると、残存債権者が十分に債権を回収できない可能性がある。このような濫用的な事業譲渡に対処するために、会社法23の2第1項で、譲受会社への履行請求が認められている。

第2問

 株式会社の株主は有限責任しか負わないため、会社債権者の債権の唯一の担保は会社財産のみである。そのため、分配可能額規制として資本金等の額以上の純資産が会社に残っている場合にしか会社財産の分配を認めないこととしないと、会社が債務超過に陥るリスクが高まり、会社債権者が害されてしまう。これを事前に防止するために、債権者異議手続きが求められている。

第3問

 種類株式を発行することは、既存株主が保有している株式と異なる種類の株式を創設することになり、既存の株主の地位が変更されることになる。会社が種類株式を発行するニーズと、既存株主の保護との調整を図るために、会社法108条2項で、種類株式発行の際には、定款にその旨を記載することが求められている。

第4問

 後からきた約半数の株主を総会会場に入場させず、株主総会を開催したことは原則として株主総会決議の瑕疵を構成する(309条1項)。もっとも、本件X株式会社は、COVID-19対策として、予め書面または電磁的記録による議決権行使を行なって欲しい旨を通知に記載している。そのため、株主が株主総会に参加しなくとも、議決権行使の機会は十分に保障されていたと言える。したがって、本件では、株主総会決議の効力に瑕疵は認められない。

第5問

 最終完全親会社の株主は、親会社の取締役等を被告として責任追及の訴えを提起するのが原則である。もっとも、親会社は子会社の取締役等との人的関係から、子会社の取締役等に対する責任追及を懈怠する恐れがある。そこで、最終完全親会社の株主が、実質的には、実際に事業を行う子会社に出資をしていることに鑑みて、最終完全親会社の株主に提訴権を付与した。