2021年度東北大学法科大学院前期入試 再現答案 民法

第1問

1. BのCに対する請求は、所有権に基づく返還請求としての甲機械引渡し請求である。①原告所有②被告占有が上記請求の要件であるところ、Bは甲機械の所有者であるし、Cは占有改訂の方法により間接的にCが甲機械を占有しているので上記請求が基礎付けられる。
2. Cは即時取得民法[以下、法令名省略]192条)を主張してBの請求を拒むことが考えられる。もっとも、甲機械はAの手元に残されたままとなっており、Cは甲機械を現実に受け取ってはいない。そこで、占有改定が「動産の占有を始めた」(192条)と言えるのか問題となる
 ア. 即時取得は占有という動産に関する権利の外形を信頼し、所有者の支配領域を離れて流通するに至った動産に対して、支配を確立したものを特に保護するものである。占有改訂による引き渡しの場合、所有者の支配領域を離れているとはいえないし、この場合に即時取得を成立させると所有者に酷である。そのため、占有改定は「動産の占有を始めた」に含まれない。
 イ. 本件においても、占有改定は「動産の占有を始めた」に含まれないため、Cに即時取得は成立しない。
3. 以上より、Bの請求は認められる。

 

第2問

1. 見解①について、妥当であると考える。債権譲渡の債務者に対する対抗要件は譲渡人の債務者に対する通知である(467条1項)ところ、本件では、C・Dいずれの譲渡についてもAからBへ通知がなされており、債務者対抗要件が備わっているからである。また、通知が同時に到着したからといって、債務者が弁済を免れるべき理由はない。加えて、後述のように譲受人間では両者ともに一方に一種の不当利得返還請求権(703条・704条)の行使として債権額に応じた按分配当を求めうるため、この観点からも見解①は妥当である。
2. 見解②についても妥当であると考える。債権譲渡の第三者に対する対抗要件は、確定日付ある証書による通知(467条2項)であるところ、C・Dの両者とも確定日付による通知を備えており、第三者に対する対抗要件を具備している。ここで、債務者が二重に弁済を強制されるいわれはないから、債権者のいずれかに弁済すれば、債務者は債務を免れることになる。債権者同士で不当利得に基づく按分配当請求権を行使し、債権者間で調整を図るのが妥当である。

 

第3問

 Aに不法行為責任が成立することが前提であるため、原則としてAはBに対して損害の全てについて損害賠償義務を負う。もっとも、Bの頸椎不安定症という身体的素因があったために症状が重くなり、完治まで6ヶ月と時間がかかっている。被害者の身体的素因を考慮して過失相殺(722条2項)ができるか問題となるが、できると解すべきである。722条2項の趣旨は損害の公平な分担にあるところ、被害者側の素因によって損害が拡大した以上、その賠償義務は被害者に負わせたほうが公平と言えるからである。よって、AはBに対して損害の全額について賠償義務を負わない。

 

第4問

令和2年7月10日で、Aが自己が相続人であることを知ってから3ヶ月以上経つため、921条2項により単純承認したものとみなされる。そのため、Aは相続放棄することができないのが原則である(919条1項)。もっとも、AはBに相続財産が全くないことを信じていたため、錯誤の規定(95条)を類推適用して、95条の要件を満たす場合に限り相続放棄をすることができると解すべきである。