令和5年司法試験 刑事訴訟法 再現答案

時間119分くらい(構成20分)7枚丁度 予想A→B評価

 

第1 設問1

1 捜査①について

(1)前提として、捜査①は、「強制の処分」(刑事訴訟法(以下、略)197条1項但書)(以下、「強制処分」)たる捜索(218条1項)に当たらないか。

ア 有形力の行使を伴わない処分を念頭に置くと、それを伴う処分を全て強制処分とするのは妥当ではなく、また、既存の強制処分との均衡を考慮すると、法益の内容性質制限の程度を問わずおよそ意思に反する全ての法益侵害を強制処分とするのも妥当ではない。

 そこで、強制処分とは、①個人の意思を制圧して、②重要な法益に対する実質的な侵害制約を伴う処分をいう。なお、対象者に知られることなく密行的に行われる処分の①の有無については、合理的に推認される個人の意思に反するか否かにより決する。

イ Pが、ゴミ袋1袋を領置することを知れば、甲は当然拒むことが予想されるから、捜査①は、合理的に推認される甲の意思に反している。よって、個人の意思を制圧している(①)。

次に、捜査①において領地したゴミ袋1袋は、アパートの敷地内にあったため、捜査①の領置により侵害される法益は、私的領域内のプライバシーであるとも思える。

しかし、同アパートにおいては、大家は、居住者より、ゴミをアパート敷地内のゴミ置き場に捨てるよう指示しており、大家が同ゴミ置き場のゴミの分別を確認し、公道上にある地域のゴミ集積書に、ゴミ回収日の午前8時頃に搬出することにつき、あらかじめ許諾をえている。そうすると、同ゴミ置き場に置かれた時点で、公道上のゴミ置き場に置いたものと同視でき、捜査①をしたとしても、上述の法益を制約することにはならない。

もっとも、公道上のゴミ袋については、捨てた者の「通常このまま収集されて他人にもその内容はみたれることはないという期待がある」という意味で、甲のプライバシーの利益が残存する。しかし、この利益は、憲法35条で保障されている私的領域に対するプライバシーに比して重要ではない。よって、かかる法益は重要な法益に当たらず、捜査①は、重要な法益に対する実質的な侵害制約を伴わない(②)

 よって、捜査①は、強制処分にあたらない。

(2)では、任意処分としての領置(221条)として適法か。

 前提として、「遺留した物」(同条)とは、自己の意思によらずに占有を喪失し、又は、自己の意思によって占有を放棄した物をいうところ、ゴミ袋は、甲が自らの意思により占有を放棄した物であるから、「遺留した物」にあたる。

ア 強制処分に当たらなくとも、上記法益を侵害しうる以上、捜査比例の原則(197条1項本文)が及び、当該処分により侵害される法益侵害の内容程度と、操作目的達成のために、当該操作手段を用いる必要性とを比較衡量し、具体的状況の下で相当といえなければ違法である。

イ 上述のように、操作①により侵害される法益は、他人にその内容を見られることはないという期待であるところ、これは憲法35条で保障される法益に比して重要ではない。また、Pは、甲がアパートの建物から出てきて、ゴミを置くのを現認した上で、そのゴミ袋のみ任意提出を受けて領置している。 そうすると、第三者法益侵害を伴っていない。よって、法益侵害の程度が低い。

 一方、甲に対する嫌疑は、Vに対する、住居侵入・強盗殺人未遂事件という重大犯罪である。また、V型付近にあるコンビニに設置された防犯カメラの映像に、犯人に酷似した着衣や背格好の男性が写っており、さらに、どうコンビニから1キロメートル離れたガソリンスタンドの防犯カメラの映像にも、同男性が写っており、その男性が、上述のアパートに入っていくのPは現認している。そうすると、甲が、上記重大犯罪の偏人である可能性が非常に高く、甲に対して領置を実施する高度の必要性があった。

 さらに、捜査を開始したところ、現場からは、足跡意外に犯人の特定につながる証拠を発見することができず、領置を実施して、本件の証拠を押さえる必要があった。

 以上に鑑みれば、捜査①により侵害される法益の程度に比して、捜査の必要性が高いため、捜査①は、具体的状況の下で相当と言える。

(3)以上より、捜査①は、任意処分として適法である。

2 捜査②について

(1)前提として、捜査②は、強制処分に当たらないか。

ア 第1、1(1)、アの基準で判断する。

イ 甲は、Pが、自己が捨てた容器を回収することを知れば、それを当然拒んだといえるため、捜査②は、合理的に推認される甲の意思に反している。よって、個人の意思を制圧している(①)

 確かに、Pは、甲が公道上に捨てた容器を領置しているため、捜査②により侵害される法益は、通常このまま収集されることに対する期待という利益にとどまるとも思える。

 しかし、炊き出し用の使い捨て容器からは、通常、炊き出しに参加し、配給を受けた者の唾液が付着する。そして、現在の科学技術の下では、唾液から、個人のDNAと特定することができ、DNAから、個人情報を取得することが容易になっている。そうすると、捜査②により侵害される法益は、甲の「DNA等の個人情報を含む唾液をみだりに採取されない自由」である。この法益は、憲法35条で保障される私的領域に侵入されない利益に匹敵するため、重要な法益に当たる。

 そして、Pが、甲の唾液のついた容器を回収して、領置すること自体により、法益侵害の程度も実質的なものに至っている。

 よって、捜査②は、重要な法益に対する実質的な侵害制約を伴う処分(②)であり、強制処分にあたる。

(2)捜査②が、既存の強制処分に当たりうるか検討するに、捜査②は、警察員が、炊き出しに参加し、容器の裏側にマークをつけて、捨てられた容器を領置するというものであり、既存の強制処分のいずれにも当たらない。

 よって、捜査②は、強制処分法定主義違反(197条1項但書)で、違法である。

第2 第2問

1 実況見分調書①(以下、「調書①」)について

(1)調書①は、伝聞証拠(320条1項)にあたり、証拠能力が否定されないか。

ア 伝聞証拠の証拠能力が原則として否定されるのは、供述証拠は、知覚、記憶、叙述の過程に誤りが入り込む恐れがあるため、宣誓の賦課、対立当事者による反対尋問、裁判所による供述態度の観察といった手続により、当該供述内容の真実性を吟味する必要があるところ、供述証拠が伝聞証拠として、公判廷に顕出される場合には、このような吟味の機会がなく、事実認定を誤らせる恐れがあるからである。

 そこで、伝聞証拠とは、①公判期日外における供述を内容とする証拠で、②当該供述内容の真実性を立証するために用いられるものをいう。

 そして、②の有無は、要証事実との関係で相対的に決せられるものの、当事者主義を採用する現行刑訴法の下では、検察官が掲げる立証趣旨がそのまま要証事実になるのが原則であるが、当該立証趣旨に即した立証が何ら意味を持たない例外的な場合には、それとは、別個の事実が要証事実になるものと解さなければならない。

イ 本件の争点は、甲の弁護人が犯人性を争うと主張しているため、甲の犯人性である。そして、Tは、調書①の立証趣旨を「甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能だったこと」すなわち、甲がV型の施錠された玄関ドアの鍵を開けることが可能だった事実それ自体としている。

 証拠構造について検討するに、Tは、調書①、②以外にも、Vの検面調書を証拠調べ請求しており、この調書は伝聞証拠に当たるものの、Vが死亡しているため、321条1項2号により、証拠能力が認められる。そうすると、検面調書を証拠として、立証活動を行うことになる。

 どう検面調書の内容は、「犯人が・・・私の左側頭部を殴った」というものであり、上記事実が立証されれば、甲が実際にVたくに侵入することができ、Vの供述内容が、何らの根拠に基づくものではないことが推認され、Vの供述の信用性が高まる。Vの供述の信用性が高まれば、甲の犯人性立証に資するため、調書①は、Vの供述の信用性を高める補助証拠として機能する。

 よって、立証趣旨に即した立証は意味を持つため、上記事実がそのまま要証事実になる。

ウ 調書①全体は、公判期日外におけるQの供述を内容とする証拠であり(①)、供述内容が真実でなければ、要証事実を立証できないため、供述内容の真実性が問題となり、伝聞証拠に当たる。

 もっとも、検証と実況見分は強制処分か任意書文化の違いしかないため、実況見分調書は、検証調書に準じるものとして、321条3項の要件を満たせば証拠能力が認められる。

 よって、Qが、公判廷において真正作成供述を行えば、証拠能力が認められる。

エ 写真部分、説明部分は、公判期日外における甲の供述を内容とする証拠ではあるものの、この部分は実況見分の結果を記載した部分にすぎず、実況見分調書と一体として見ることができる。よって、別途同部分について伝聞例外の要件を満たす必要はない。

オ 以上より、調書①の証拠能力は認められる。

2 実況見分調書(以下、「調書②」)について

(1)調書②は、伝聞証拠にあたり、証拠能力が否定されないか。

ア 第2、1(1)アの基準で判断する。

イ 争点は上述のように、甲の犯人性である。そして、調書②の立証趣旨は、被害再現状況、すなわち被害を再現したこと自体である。

 もっとも、調書②において再現したことは、Sを犯人に見立てた被害状況であり、Vの被害は、後ろから、ゴルフクラブで胴部を殴られたという単純なものであり、犯行の物理的可能性が問題となる事案ではない。また、再現自体は、検察庁において行われており、再現自体の忠実性、厳密性が備わっているわけではない。そうすると、調書②において、被害状況と独立して、被害再現状況を立証趣旨として掲げる必要はなく、被害再現状況を立証したとしても、甲の犯人性立証に資さない、

 よって、本件は、立証趣旨に即した立証が意味を持たない例外的な場合であり、被害状況が要証事実となる。

ウ 調書②全体は、公判期日外におけるRの供述を内容とする証拠であり、内容が真実でなければ甲の犯人性を立証できないため伝聞証拠に当たる。

 もっとも、調書①と同様、Rが真正作成供述を行えば、321条3項により証拠能力が認められる。

エ 写真部分、説明部分は、公判期日外におけるV及びSの供述を内容とする(Sは、動作で供述をなしているといえる)、証拠で、同内容が真実でなければ甲の犯人性を推認できないため伝聞証拠に当たる。

 そして、V Sは、「被告人以外の者」であるから、321条1項柱書の要件を満たさなければならないところ、両者ともに署名押印がない。

 よって、伝聞例外の要件を満たさない。

オ 以上より、調書②の証拠能力は否定される。

 以上

 

刑訴はいいねぇ。期待を裏切らない問題。解きやすく論じやすい。

後輩の前期期末試験で領置が出題され、その解説をいただいていたので、解説通りに丁寧に論じた。捜査②は、答案構成段階では任意処分として処理するつもりだったが、論じている最中に、同じような高裁があったことを思い出し、急遽、強制処分法定主義違反で処理した。

実況見分調書もローの講義試験で嫌になる程学修したので、内心ウキウキで解いていた。

書き切れたし論じたいことを全て綴ることができたのでA評価予想だった。が、B評価。そもそも領置の論じ方が違うのか、強制処分法定主義違反で処理したことでBADが入ったか、実況見分調書について典型的な処理をしすぎたか、、、よくわからない。

 

令和5年司法試験 刑法 再現答案

120分(構成25分)7枚後半 予想B→A評価

 

第1 設問1(1)

1 甲に、Aの現金200万円に対する1項詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立する。

 「欺」く行為とは、処分行為に向けられた財産的処分行為をするための判断の基礎となる重要な事項を偽り人を錯誤に陥らせることをいう。もっとも、本件では、甲は、1回目・2回目の電話において、「現金の交付を求める文言を述べ」ていないため、欺く行為に着手したといえるか。「実行に着手」(43条本文)したといえるか問題となる

(1)実行に着手したか否かは、43条本文の文言条の制約からくる密接性と、未遂犯の実質的処罰根拠から導き出される法益侵害の現実的危険性の両者をもって判断する。危険性密接性の判断は、行為者の計画も考慮に入れた上で、準備的行為と構成要件該当行為との不可分性、時間的場所的接着性、準備的行為終了後障害となるような特段の事情の有無、準備的行為が成功する可能性等の諸事情を総合的に行使して決する。

(2)当てはめ再現できず

第2 設問2

1 乙と丙の、Bの手足をロープで縛り、床の上に倒し、Bの現金300万円をもってB卓から出て、Bに障害を負わせた行為について

(1)上記行為に、乙と丙に強盗致傷罪(240条前段)の共同正犯(60条)が成立しないか。なお、後述のとおり、両者と甲との間に共同正犯は成立しない。

ア 「財物」(236条1項)とは、他人が占有する財物をいうところ、現金300万円は、Bが占有する財物であるため、「財物」にあたる。

イ 「暴行」とは、財物奪取に向けられた相手方の犯行を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使をいい、かかる程度は、構成要件該当性の問題であるから、一般人を基準に社会通念に従って判断する。

 乙と丙は二人がかりで、Bの手足をそれぞれロープで縛り、口を粘着テープで塞ぎ、Bを床の上に倒している。ロープで縛れば、通常人は身動きが取れなくなり、相手方の指示に従うしかなくなるため、これをもって、相手方の犯行を抑圧するに足りる程度といえる。また、上記行為は、300万円の奪取という、財物奪取に向けられている。

 よって、「暴行」がある。

ウ 「強取」とは、暴行脅迫により、相手方の犯行を抑圧し、その意思によらずに、財物を自己または第三者の占有に移すことをいう。上述の通り、乙と丙は、Bに対して暴行を加え、Bはそれにより反抗抑圧状態に至り、Bの意思によらずにBの300万円を持ち去っているため、「強取」したといえる。

エ 故意(38条1項本文参照)とは、構成要件該当事実の認識認容をいうところ、両者は、上記行為を認識し、占有侵害結果を認容しているのだから、故意がある。

オ 両者に不法領得の意思たる権利者排除意思、利用処分意思も認められる。

 よって、強盗罪が成立し、「強盗が」(240条前段)といえる。

カ そして、Bは、転倒して頭を打ちつけ、傷害を負っている。

キ もっとも、同傷害は、上記乙と丙の暴行から直接生じたわけではなく、Bが転倒したことに起因している。そこで、乙と丙の行為と傷害結果との間に因果関係が認められるか問題となる。なお、強盗の機会性は問題とならない。乙と丙は財物奪取に向けられた暴行しか行っておらず、他にBに対して有形力の行使を行っていないからである。

(ア)刑法上の因果関係は当該行為が結果を引き起こしたことを理由に、より重い刑法的評価を加えることが可能な関係を認めうるかという法的評価の問題である。そこで、条件関係が認められることを前提として、当該行為が内包する危険が結果となって現実化したといえる場合に因果関係が認められる。その判断は、行為の危険性と介在事情の結果発生への寄与度を中心に諸事情を総合考慮して決する。

(イ)確かに、Bが頭部打撲の障害を負ったのは、Bが転倒して頭を塚に打ち付けたからであり、介在事情の結果発生への寄与度が大きい。しかし、それは、乙と丙が、Bをロープで縛り、床の上に倒したことにより、Bが長期間の緊縛による足の痺れが残っていたことに起因する。そうだとすれば、介在事情は、乙丙の行為に誘発されたと評価でき、介在事情の異常性が低い。

 以上に鑑みれば、乙と丙のBに対する不法な有形力の行使の危険性が、Bの傷害結果へと現実化したと評価できるため、因果関係が認められる。

 以上より、乙と丙に強盗致傷罪が成立する。

(2)上記行為に、甲に強盗致傷罪の乙と丙との共同正犯が成立しないか。

ア 自ら実行行為を行なっていないものであっても、相互利用補充関係に基づく共同犯行の一体的遂行からすれば、①共謀②共謀に基づく実行行為③正犯性が認められれば、共同正犯が成立する。

イ 三者は、設問1の計画に従い犯行することを計画しているため、1項詐欺罪の共謀(①)がある。

 もっとも、上述のように、上記丙と乙の行為は、新たに両者が共謀したことにより行われているため、上記行為が共謀に基づく実行行為といえるか。

 共犯の処罰根拠は、自己の行為が結果に対して因果性を与えた点にある。そこで、基づく実行行為と言えるためには、因果性が及んでいたか否かで決する。具体的には、行為態様の類似性、被侵害法益の同一性、動機目的の共通性をもって判断する。

 確かに、乙丙は、Bから300万円を得るために上記行為に及んでいるから、詐欺の共謀と動機目的を共通にする。しかし、強盗と詐欺では、意思に反する占有移転か、自己の意思に基づく占有移転かで行為態様が異なるし、相手方に傷害を加えるか否かにおいても行為態様が全く異なる。また、占有侵害という点で被侵害法益は共通するものの、身体についても侵害される点で被侵害法益が異なっている。さらに、乙と丙は甲の関与しないところで、自らロープや粘着テープを準備しているため、共謀の物理的因果性が及んでいたとはいえない。

 以上に鑑みれば、共謀の因果性が及んでいたと言えないため、基づく実行行為に当たらない。

ウ 以上より、甲に強盗致傷罪の共同正犯は成立しない。

第3 設問3

1 6の事実について、丁に業務妨害罪の成立を否定しつつ、7の事実について、丁に業務妨害罪の成立を肯定する立場

  • 以下再現できず。説の根拠と内容を提示して、それを事案に当てはめた。

以上

 

三日目。二科目しかないし、得意の、というよりは途中答案の心配がない刑事系だったので、かなり気楽に受験できた。会場についてからも全く緊張せず、今の自分を出し切るだけだなぁと思っていた。

実務家登用試験なのだから事例問題1題にしろ!!!(クソデカボイス)と心の中で叫び続けた。あと、自説書かせろ!!!とも。正直なところ、思考を上手く言語化できず、採点者に伝わるかなぁと不安になりながら論じていた。ただ、設問1、2、3共に全て知っている問題だったので、沈みはしないかなぁとも。

文章グチャグチャなので期待を込めてB予想で、A評価。7枚後半で書きまけなかったこと、全て知っている論点だったこと、丁寧に検討したことが勝因だと思う。弊ローの刑法はやっぱり強い。nrs先生ありがとう。

令和5年司法試験 民事訴訟法 再現答案

120分(構成30分)5枚後半 予想B→A評価

 

第1 設問1

1 本件文書の証拠能力は否定されないか、

(1)民事訴訟法においては、自由心象主義(民事訴訟法(以下、略)247条)が採用されており、証拠方法の無制限も採用されている。それは、181条2項にも現れている。そうすると、不当な方法で収集された証拠方法も、全て証拠力の問題として処理すればよく、証拠能力を否定する必要はないようにも思える。

 しかし、不当な方法で収集された証拠方法を全て採用するとすれば、不当な証拠収集方法を助長し、公正な裁判所を害し、国民の司法に対する信頼を損なうことにつながる。そこで、訴訟上の信義則(2条)を根拠に、人格権を侵害し、反社会的な方法で収集された証拠の証拠能力は否定すべきである。

(2)Xが、本件メールを収集した方法は、Xがプライベートで利用しているアカウントのメールが閲覧可能な状態になっていることを利用し、Y自身のUSBメモリにXが送受信した全てのメールを保存するものであった。訴訟に関係しそうなメールのみを抜き出して保存するのみならず、すべてのメールを保存する行為は、Xのプライバシーを相当程度侵害するものである。また、Xがプライベートで使用しているパソコンからメールを保存しているため、Xの私生活がYに明かされることになる。さらに、Yは、Xの本件紛争が顕在化した後、本件紛争が訴訟に発展する可能性も高いと考え、Xに何らの相談なしに行為に及んでいる。

 以上に鑑みれば、本件文書は、人格権を侵害し、反社会的な方法で収集された証拠として、証拠能力が否定される。

第2 設問2

1(ア)―(ウ)すべてに共通する事項

 甲債権と丙債権が審理に含まれること、原判決が示した相殺の再抗弁の許容性、相殺の優先順位及び相殺の充当には変更がないことを前提とするため、(ア)―(ウ)においていかなる判決をすべきかは、もっぱら不利益変更禁止の原則(304条)との関係で問題となる。

 また、原審は、甲債権が存在し、乙債権と丙債権が相殺により消滅したことを理由に、Xの請求を認容しているから、原審がそのまま確定すれば、甲債権の存在(114条1項)及び、乙債権、丙債権の不存在(114条2項)について既判力が生じる。

 以上を前提に検討する。

2 (ア)について

 (ア)は、甲債権は弁済により消滅したとの判断に至っている。甲債権が弁済により消滅したことを理由に、Xの請求を棄却し、判決が確定したとすれば、生じる既判力は、甲債権の不存在(114条1項)のみであり、乙債権と丙債権に何ら既判力は生じない。「相殺をもって対抗した額」がないからである。

 そうすると、原審で生じた甲債権の存在という既判力を失わせるという意味で、控訴したXに不利益になるため、請求棄却判決をすれば、不利益変更禁止の原則に抵触する。

 よって、控訴を棄却(302条)すべきである。

3 (イ)について

 (イ)は、甲債権と乙債権はいずれも弁済による消滅はしていないが、丙債権の存在は認められないとの判断に至っている。

 かかる判断により、丙債権は存在しないため、乙債権と丙債権の相殺は生じず、甲債権と乙債権が相殺により消滅することとなる。そうすると、Xの請求は棄却となり、それが確定すれば、甲債権の不存在(114条1項)、乙債権の不存在(114条2項)に既判力が生じる。なお、丙債権は相殺の抗弁として提出されているところ、「相殺を持って対抗した額」がないため、丙債権についての既判力は生じない。

 そうだとすれば、原審で生じた甲債権の存在に対する既判力を失わせる点で、甲にとって不利益になるため、不利益変更禁止の原則に抵触する。

 よって、この場合も控訴を棄却すべきである。

4 (ウ)について

 (ウ)は、甲債権は弁済による消滅はしていないが、乙債権は弁済により消滅したとの判断に至っている。

 かかる判断により、甲債権と乙債権の相殺は生じず、甲債権が存在することになる。そうすると、Xの請求は認容となり、既判力は、甲債権の存在(114条1項)についてのみ及ぶ。乙債権は「相殺を持って対抗した額」がないし、丙債権も同様だからである。

 そうすると、原審で生じた甲債権の存在についての既判力を失わせることにはならず、不利益変更禁止の原則に抵触するわけではない。

 しかし、この場合、「第一審判決がその理由によれば不当である場合においても、他の理由により正当であるとき」(302条2項)に当たるため、この場合も控訴を棄却すべきである。

第3 設問3

1 課題1について

(1)甲債権の存在を認めた前訴確定判決に、既判力が生じ、同既判力がXのZに対する訴訟手続きにおいて作用するか。

ア Zは、前訴の当事者(115条1号)ではないし、他の同条各号事由にも当たらないから、原則として既判力は作用しない。

 もっとも、既判力とは、確定判決の判断内容に与えられる通用性ないし拘束力をいい、その趣旨は、紛争の終局的解決、正当化根拠は手続保障を前提とする自己責任にある。

 そこで、①その者に既判力を作用させる合理的必要性があって、②既判力が及ぶ者の手続保障が十分になされていれば、既判力が拡張される。

イ 前訴は、XのYに対する200万円の貸金返還請求訴訟であり、それが認容されているから、前訴既判力は、XのYに対する甲債権の存在に生じている。そして、Zは、甲債権を保証している。主債務(甲債権)が存在し、Zがそれを保証したとして前訴において補助参加した以上、保証債務も存在すると考えるのが素直であり、そもそも主債務の存在を争うのは紛争の蒸し返しに他ならない。よって、Zに既判力を作用させる合理的必要性はある。

 しかし、Zは、前訴において補助参加した際、免除の事実や、弁済の事実を主張した上で、免除の事実を証明するためにZ自身の証人尋問の申し出をしている。しかし、Yは、免除の事実を否定し、Zの証人尋問の申し出を撤回している。仮に免除の事実や弁済の事実が認められれば、甲債権は存在せず、付従性により保証債務も存在しないことになるため、Zに有利になるはずだった。にもかかわらず、上述のYの主張・撤回により、Zの主張の審理がなされていない。そうだとすれば、Zについて既判力を作用させる手続保障が十分だということはできない(②)

ウ よって、Zに既判力は作用しない。

(2)では、Zが、前訴に補助参加していることを根拠に、参加的効力(46条)が作用しないか。

 上述の通り、Yは、Xの免除の事実を否定し、Zの証人尋問の申し出を撤回している。そうすると、46条3号の「被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げたとき」に当たるため、参加的効力は及ばない。

(3)最後に、反射的効力は認められない。そもそも明文を欠くし、既判力と同様の効力は、後訴における当事者の訴訟行為の自由を奪うので、できる限り制限すべきだからである。

2 課題2について

 途中答案

 

民訴は相変わらずよくわからない出題をする。設問1は違法収集証拠、解いてる最中ずっと「刑訴で出せよ!!!」と思っていた。アガルートの論証ママで適当に書いた。設問2は不利益変更禁止の原則、ここでも渡辺先生の判例講座が役に立った。規範なしで当てはめオンリー、どう転ぶか不安だった。設問3は典型論点既判力反射効参加的効力。出題趣旨によるとここは争点効らしい、なんで???。設問2を丁寧に検討しすぎ(答案構成でも相当悩んだ)たせいで見事途中答案に終わる。

期待を込めてB予想、なぜかA評価。ローの友人の中には違法収集証拠が初見だった人もいて、自分が基本論点だと思っている部分でも論じることができない受験生がいる分、相対的に順位がよくなったのかなぁと思う。あと、自分なりに悩みを見せて説得力ある答案を自分の言葉で書くのが肝要なのかなぁ。

二日目終了。一日目と同様、親友と帰宅。再び町中華へ。今宵は固焼きそば。山場は超えてあとは弊ロー十八番の刑事系のみだったのでかなり気楽だった。

 

令和5年司法試験 商法 再現答案

時間120分(構成25分) 6枚前半 予想B→A評価

 

第1 設問1 小問1

1 Gは、代表取締役であり「役員」(423条1項)であるAに対し、甲社に5000万円の損害が生じたとして、423条に基づき損害賠償請求を行う。

 この要件は、①「任務を怠った」こと(以下、「任務懈怠」②「損害」③①と②の因果関係(「よって」)④帰責事由(428条参照)である。

 Aからは、本件売買契約は利益相反取引(356条1項3号)に当たるとしても、必要な手続きは経ているのであるから、任務懈怠がないとの反論が想定される、

(1)利益相反取引規制(356条1項2号、3号)の趣旨は、取締役の権限濫用を防ぎ、会社の利益を保護する点にある。そこで、間接取引(356条1項3号)に当たるか否かは、客観的外形的に見て会社の犠牲で取締役に利益が生じる形の行為か否かで判断する。

 確かに、本件では、甲社は、Eと本件売買契約を結び、Aとは同契約を結んでいないため、直接取引には当たらない(356条1項2号)。しかし、本件売買契約の経緯は、Aが本件土地についてEとトラブルになり、そのトラブルを解決するために土地を買い取ることにあった。また、Aは、本件土地を自分で購入する資金がなかったことから、甲社を利用して本件土地を購入している。さらに、Aは、甲社の100%株主であり、甲社の実質的所有者であるから、甲社の契約とAの契約は同視できる。 

 以上に鑑みれば、甲社の資金5000万円の犠牲で、Aにトラブル解決という利益が生じているので、間接取引にあたる。

(2)上述のように必要な手続きは経ているものの、423条3項によれば、間接取引をし、会社に「損害」を生じさせた場合、任務懈怠が推定される。ここで、Aから、甲社の経営は順調であり、本件売買契約締結後も、その運転資金が枯渇することはなく、近い将来に甲社が資金ぐりに困ることが予想される状況ではなかったため、「損害」が生じていないとの反論が想定される。

 しかし、本件土地が甲社の事業に使われる予定だったという事情はなく、本件売買契約後も甲社で利用されることなく放置されていた。そうすると、本件売買契約を締結しなければ、甲社において全く利用価値のない本件土地を購入せず、甲社が5000万円を支払う必要はなかったという意味において、5000万円全額について甲社に損害が生じている。

 よって、Aの反論は失投であり、任務懈怠が推定される。

 本件では、Aの任務懈怠を覆す事情はなく、さらに、Aは、本件土地の評価額は、見積もっても1000万円程度であることを知っていたのだから、任務懈怠の推定を覆すことはできない。よって、Aに任務懈怠がある(①)

 (3)上記のように「損害」(②)もあるし、因果関係もある(③)。Aは、上記の通り、本件土地が1000万円の評価額であることを知っていたのであるから、帰責事由がないとはいえない(④)。

(4)以上より、Gの請求は認められる。

第2 設問1 小問2

1 乙社は、「役員」たるAに対し、429条1項に基づく損害賠償請求を行う。

 前提として、429条の法的性質は、株式会社が経済社会において重要な役割を果たしており、その活動が取締役の職務執行に依存していることから、法が役員等に課した法定責任である。

 そこで、「職務を行うについて悪意または重大な過失」とは、任務懈怠と、それについての悪意重過失を意味し、「損害」は、直接損害間接損害問わず、任務懈怠と相当因果関係(「よって」)にあるすべての損害が含まれる。

(1)Aは、甲社の代表取締役であるから、善管注意義務(330条、民法644条)及び忠実義務(355条)を負っている。そして、甲社は、平成27年頃から、営業利益が絵減少し始めたものの、運転資金が枯渇するような状況ではなかったものの、Aは、本件債務の発生当時、本件債務を含む甲社の債務の履行のために運転資金が足りなくなれば、本件定期預金を取り崩すか、担保に入れることにより対応することを予定していた。

 そうだとすれば、Aは上記義務の一内容として、本件債務を返済するために、会社財産を適切に維持管理する義務を負っていた。

 にもかかわらず、会社に不必要な本件土地を甲社の資産を用いて購入し、本件債務に充てる予定だった本件定期預金をとり崩して購入が行われているのであるから、上記義務に違反している。

 よって、任務懈怠がある(①)

(2)甲社は、Aの上記任務懈怠により、実質的な債務超過に陥り、また、本件土地には担保的価値がないために短期の融資を受けることもできず、事業活動を継続できなくなっていることから、乙社に3000万円を返済する資金がない。そうすると、乙社に3000万円の「損害が発生しているし、損害とAの任務懈怠との間に相当因果関係もある。

(3)Aは、甲社の代表取締役であり、会社の資金関係について熟知しているはずだから、上記任務懈怠について少なくとも重過失がある。

(4)以上より、乙社の請求は認められる。

第3 設問2 小問1

1 Iの原告適格について

(1)Iは、831条1項に基づき、本件決議1の取り消しの訴えを提起している。もっとも、Iは、HとともにAを共同相続して、株式を準共有している。Iは、Hとともに権利行使者について協議せず、会社に通知しておらず(106条本文)、会社の同意もない(106条但書)ため、「株主」たり得ないのではないか。

ア 訴訟提起も会社に対する権利行使の一種であり、実質的に見ても会社運営の便宜を図った同条の趣旨が及ぶ、

 したがって、訴訟提起の場合も、106条本文に基づき権利行使者の指定通知をなす必要がある。もっとも、会社に訴訟上の防御権を濫用し、著しく信義則に反すると認められる特段の事情があれば、この限りではない。

イ 仮に、甲社が、Iによる訴訟提起の際、権利行使者の指定通知がないことを理由に、Iの原告適格を争うとすれば、本件決議1において、I・Hによる権利行使者の指定通知がないことに対して、会社が同意し、Hに対して議決権を行使させ、本件決議1が有効に成立していることと矛盾することとなる、この甲社の行為は、106条規定の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けるものであり、訴訟上の防御権を濫用し、著しく信義則に反するといえる。

 よって、Iに106条の指定通知、同意は不要であり、Iは、「株主」にあたり、原告適格が認められる。

2 訴えの利益について

(1)訴えの利益とは、取消訴訟において、当該決議を取り消すことの法的必要性実効性をいう。もっとも、本件決議1の後、本件決議2により、BHJが再び選任されているから、訴えの利益を欠かないか。

(2)本件決議1が取り消されると、本件決議2を招集した代表取締役Jが、本件決議1の当初から、取締役でなかったことになり、適法な株主総会招集権者ではなくなる(296条3項)。適法な招集権者ではない者が招集した株主総会は、瑕疵の程度が甚だしく、決議不存在になる(830条1項)。そうすると、決議1が取り消されるか否かが、決議2が不存在か否かを決める先決問題になる。

 よって、決議2の不存在確認訴訟を併合提起すれば、決議1を取り消す法的必要性実効性があるので、訴えの利益が認められる。

3 本件訴えにかかる請求について

(1)Iは、本件決議1において、IH間の協議なく、会社が同意したことを持って、Hに議決権行使をさせたことが民法252条1項違反であり、決議方法の法令違反(831条1項1号)があると主張する。

ア 前提として、権利行使者の決定は、持分の過半数で決する。同決定は、管理行為(民法252条1項)に当たるからである。

 そして、106条本文は、民法の共有に関する特別の定め(民法264条但書)にあたり、106条但書は、会社の同意がある場合、106条本文の適用が排除され、原則規定である252条1項が適用されることを規定したものである。

 そこで、252条1項の規定に従わなければ、会社の同意があっても、同条違反になる。

 イ 本件では、IH間において、本件準共有株式について権利を行使する者の指定も含めて、何一つ合意をすることができていない。そうすると、持分の過半数で権利行使者の指定があったとはいえず、252条1項の規定通りに指定が行われていない。

 よって、同項違反があり、決議方法の法令違反がある。

(2)本件準共有株式は4万株におよび、Hが権利行使できなければ、そもそも定足数(341条)を欠くため、「違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであるとき」(831条2項)とはいえない。よって、裁量棄却もない。

 よって、Iの主張は認められる。

第4 設問2 小問2

1 訴えの利益の定義は上述のとおりである。

 もっとも、本件決議1においては、B CDが再任されており、本件決議2では、Bが引き続き選任されている。

 本件決議1の以前から、Bは取締役であり、甲社は、取締役会設置会社であるから、取締役は3名以上でなければならない(331条5項)。そして、欠員が生じた場合、346条に予知、新たな役員が選任されるまで、当該取締役は、役員としての権利義務を有する。

 そうすると、本件決議1が取り消されても、Bはなお、本件決議2の適法な招集権者となるから、本件決議1が取り消されることにより本件決議2に影響が及ぶわけではない。

 よって、本件決議1を取り消す必要性・実効性はなく、訴えの利益は否定される。

以上

 

設問1の問1問2共に何が論点になるのかわからず、とりあえず423条、429条の要件を一通り検討し、反論で使えそうな事実をそのまま問題文から引っ張り出して、ムリヤリ問題の所在を設定した。
429条の典型論証を吐き出していた時、隣のおじさんが突然手を上げた。「あぁ、トイレか、時間足りるのかなぁ。」なんて思った刹那、そのおじさんは、周りに聞こえるようなハッキリとした声で「試験放棄します。」と言った。普通に動揺した。地獄のような一日目を受け、二日目も試験に臨もうと試験会場までその足で歩いてきたことは確かなので、少し考えてしまった。せめて小さい声で周りに聞こえないように言って欲しかった。ただ、動揺しつつも脳死で論証を吐き出していたため手は止まらなかった。その後は、「放棄する人が実際にいるくらい過酷な試験と向き合っている」という意識が芽生え、自分を鼓舞しつつ冷静に論じることができた。

設問2は、TKCの問題と論点が同じだったので、回答の筋道はたったが、小問2の条文が思いだせず適当な条文を引用して結論を導いた。

設問1が終わっていたので、設問2がはねてもB評価だろうなと予想。蓋を開けるとA評価。採点実感等を見ると、設問1は問題の所在に気がついている人がそもそも少数。設問1で差はつかず、基本問題たる設問2で勝負がついたようだ。やはり、皆解けないところは無難な論述に終始(問題の所在規範当てはめの形を最低限守って事実をできるだけ引用する)し、予備校論証で対応できる部分はより事実を引用評価し厚く論述すれば、相対的に沈むことはないのだろう。